バースのその後



 一方、その頃。

 時刻はアベルたちが試験結果を確認してから2時間ほど後のことである。

 ここはアースリア魔術学園の校庭にある第三掲示板の前である。

 アベルたち一学年の生徒たちが成績を確認してから少し時間をズラして、第三学年の生徒たちが集まっていた。

 

(全体186人52位か。まあまあだな)


 そんな中にあって成績を確認してホッと一息を吐く生徒が1人。 

 テッドの血の繋がった兄であるバースである。

 学生でありながら反魔術の組織に所属して、授業を欠席することも多いバースであったが、地頭は悪くなく、試験の成績は常に真ん中より上をキープしていた。


「やあ。バース。どうかな。その後の調子の方は?」


 突如として背後から声をかけられる。

 その男の姿を見た途端、バースの顔色は徐々に蒼白なものになっていた。

 

「ナ、ナビル様……。どうしてこのようなところに……」

 

 その男、ナビルは世界最大の反魔術組織AMOの支部局長を務める男であった。

 本来、アースリア魔術学園は関係者以外の立ち入りを認めていない。

学園の内外には、部外者の侵入を感知する様々なセキュリティが敷かれているはずであった。

 だがしかし。

AMOの中でもトップクラスの戦闘能力を有したナビルにとって、学園のセキュリティを突破するなど容易いことである。

 高度な魔術を駆使して、あらゆるセキュリティを突破するナビルは、神出鬼没の存在として、その名を知られていた。


「定例報告を怠るとは感心しないねえ。キミには図書館の蔵書を焼き払う、秘密任務を与えたはずなのだが、どうしてワタシの元を尋ねて来ない?」

「……? 秘密任務? それは一体何のことでしょうか?」

「ふふふ。惚けても無駄だよ。キミの考えていることは手に取るように分かるのだから」


 そう前置きしたナビルは、バースの額に向かってコツンと指を当てる。

 ナビルの中には自ら血を分け与えた眷属の体に触れることで、その思考を読み取る能力が存在していたのである。

 だがしかし。

 どういうわけか今回に限っては、額に触ってもバースの思考を読み取ることができなかった。


(なにっ……!? コイツ、ワタシの血を克服しているだとっ……!?)


 ナビルは驚愕していた。

 自らの血の一部を分け与えて、バースを『半魔族』の状態にしたのは、ほんの一月ほど前のことである。

 一度でも分け与えたら最後、魔族の血の呪縛から逃れる術はない。

通常『死ぬまで』眷属としての役割をまっとうすることになるのだ。


「バース。ワタシが分け与えた力はどうした!? 前回この場所で授けた魔族の力だ!」

「な、何を仰っているのか分かりません! ナビル様がボクに会いに来てくれたのは今日が初めてではないですか!」

「…………」


 何かを誤魔化すために言っているようには思えない。

 魔族としての力を使用せずとも、その人間がウソを吐いているかどうかは長年の経験から読み取ることができる能力がナビルにはあった。

 どうやらバースは本当に何も覚えていない様子である。


(これは一体どういうことだ……!? 記憶だけならまだしも、分け与えた力まで消えることが有り得るのか……!?)


 考えても、考えても、何がどうなっているのか原因を特定することができない。

 実のところ、バースが血の呪縛から逃れた理由は、禁忌の魔導書に記されていたアベルの『蘇生魔術』によるものだったのだが――。

 当然のことながらナビルにとっては、知る由もないことであった。


(おそらくこの学園に何かあるのだ……! 我々の知らない未知の『何か』が……!)


 組織の計画に支障をもたらす可能性のある不穏分子は、早々に排除しなくてはならない。

 今回の一件を通じてナビルは、学園内部の捜査を進める決意を固めるのだった。




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