ノエルの疑問
明くる日の放課後。
俺は古代魔術研究会の活動の一環として、秘密図書館を訪れていた。
だが、今日のノエルは何時もと少し様子が違っていた。
普段通りであれば俺が部屋に入った途端、子犬のように駆け付けてくるのだが、今日のノエルはテーブルに着いて黙々と本を読んでいる様子だった。
ふうむ。
この反応は、読書に集中しているわけでもなさそうだな。
どちらかというと読書はブラフで、俺に話を持ち掛ける機会を伺っているようにも見える。
「ねえ。アベル」
等と考えている時であった。
満を持してのタイミングで読書中のノエルが声をかけてくる。
「何か用か?」
「ん。今日はアベルに聞きたいことがあったの」
そこでノエルが鞄の中から取り出したのは、以前にも目にした『禁忌の魔導書』だった。
ふう。やはり気付いていたか。
ノエルが不審に思うのも無理はない。
あの魔導書に記されていた『蘇生魔術』は、ところどころページが焼け焦げて読めない仕様になっていたからな。
俺が昨日『禁忌の魔導書』に記されていた『蘇生魔術』を完全に再現できたのは、不自然な話である。
「アベルが最後に使ったあの魔術って……このページに書いてある……」
さてさて。どうしたものか。
この場合、なんと答えるのが正解なのだろうか。
俺が200年前の時代から転生した魔術師だということは、この世界では今のところリリス以外には知られていない情報なのだ。
無論、絶対に秘密にしなければならないというわけではない。
だが、情報が広がり、ナビルのような魔族に目を付けられることになれば話は別だ。
それは俺の求める平穏な人生、ひいては『平穏な学園生活』を考えると望ましくはない展開ではある。
「俺があの本を書いたのが俺だ、と言ったら信じてくれるか?」
「えっ……」
ふう。
まあ、真実を話したところで当然、信じてくれるはずもないのだけどな。
ものは試しに本当のことを言ってみると、ノエルは『どう反応すれば良いのか分からない』と言った感じの困惑した表情を浮かべていた。
「……冗談だ。昨日のことは気にしないでいい。単なる偶然だよ」
そうだな。俺が抱いている秘密を一介の学生に背負わせるのは、あまりにも荷が重い気がする。
俺が200年前から転生してきた魔術師だということは、もう暫く秘密にしておくことにしよう。
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