リリスの解説

 蛇の道は蛇、という言葉がある。


 俺のいた200年前の時代から、蛇の通る道を知るためには、同じ蛇に聞くのが最も理に叶った方法であった。


 さて。

 不幸中の幸いとも言うべきか、俺の近くには1人、今回の件について明るそうな人物がいた。


 そういうわけで俺は昨日の事件についての真相を究明すべく、知り合いの魔族に相談を持ち掛けることにした。



「なるほど。大まかにですが、事情は把握しました」



 この、俺の前にいるスラリとした体つきが特徴的な銀髪の美女の名はリリスという。


 色々と事情があって俺は、200年前に命を救った『魔王の娘』であるリリスと関係を持つようになっていた。



「おそらく今回の件は、月影のナビルの仕業だと思われます」



 アーガイル柄のタイツで包んだ足を組み直しながらリリスは言った。


 ふうむ。


 どうやら俺の思っている以上に、魔族たちの世界は狭いようだ。

 

 大まかに、と言いながらも、既に具体的な名前を名前が出ているあたり、リリスの情報網には感服である。




「で、どうして魔族がAMO、とかいう組織に関わっているんだ?」


「簡単なことですよ。人間たちの提唱する《反魔術》の理念は、一部の魔族にとって極めて都合が良いのです」



 それから。

 リリスは現代に生きる魔族たちの事情を事細かに語ってくれた。


 曰く。

 200年前の時代、黄昏の魔王が倒されて以来、魔族たちは大きく分けて、2つのグループに分断されたという。



 1つはリリスのように人間と共存していくことを目指す穏健派。

 

 もう1つは人間たちを退けて、再び、魔族たちの支配を目指す改革派である。



「ナビルが反魔術団体に関わっていたという情報は、四半世紀ほど前からワタシの耳に入っていました。

 あの男は誰よりワタシの父である《黄昏の魔王》に心酔していましたからね。同じ志を持った仲間を集めて、現在の体制を転覆させよう企んでいるのでしょう」



 ナビルを始めとする改革派の魔族のたちにとって、一部の人間たちが提唱する《反魔術》の理念は、すこぶる都合の良いものであった。


 何故ならば――。

 この《反魔術》の考えが世間に広く浸透するほど、人間たちは弱体化を余儀なくされて、体制の転覆を目指す魔族たちに有利に働くからである。



「アベル様。念のために伝えておきたいのですが……」


「分かっているさ。悪意を持った魔族はほんの一部なのだろう。今回もことで俺が魔族を恨んだりはしないさ」



 だが、これは少し面倒なことになったな。


 おそらく今回バースを裏で操っていたナビルとかいう魔族は、それなりに腕の立つ実力者だろう。


 もし仮に、200年前に《黄昏の魔王》を打ち倒した魔術師が現代に蘇ったという情報が漏れることになれば、俺の望んでいる『平穏な学園生活』を送ることが難しくなってしまう。


 俺にとっては、反魔術の連中など極めてどうでも良い存在なのだが、相手側から干渉してくるようであれば話は別だ。


 もしも今後、敵意を向けてくるようであれば、相応の対処をしていく必要があるだろうな。


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