運命の分岐点



 やれやれ。

 これはまた酷く面倒な状況になっているようだな。


 テッドから状況の説明を聞いた時から、『もしや』と思って嫌な予感がしていたのだが……。


 秘密図書館に駆けつけた俺を待ち受けていたのは、予想通りの展開であった。

 昨日、部屋の中で『魔族の眷属』を見つけた時から、こういう可能性は予期していたのである。


 どうやら反魔術の思想を持った人間たちの中には、古い時代に書かれた良質な魔導書を『有害書物』と呼んで、燃やして回るような輩が存在しているらしい。


 もしもバースが『何者か』に命令をされて、秘密図書館の中の魔導書を消そう企んでいるのだとしたら?


 現在(いま)のこの状況にも、一応の納得が行くものがある。



「ウヒャヒャヒャ! 会いたかったぜ~。ア~ベ~ル~!」



 はあ。それにしても腑に落ちないのが、薄気味の悪いバースの姿である。 

 どうやらバースは『何者か』によって魔族の血を分け与えられて、『魔族の眷属』となっているようだ。


 いわゆる、半魔族の状態である。

 俺の知る限り、普通の人間が後天的に半魔族になるというパターンは聞いたことがない。


 もし仮に、200年の時が経過して、人間が弱くなるのとは対照的に、魔族たちが力を付けているのだとしたら?


 なかなかに面倒なことになりそうな気がする。



「バース。少し見ない間に随分と不健康な姿になったみたいだな」


「黙れ! 黙れ黙れ黙れェェェえええええええええええええ!」



 バースは体内から放出した蜘蛛の糸を使って、秘密図書館の中を縦横無人に飛び回る。


 はあ。

 本音を言うと灼眼系統の魔術を使って、蜘蛛の糸を焼き払っておきたいところなのだが、場所が悪かったな。


 万が一にも部屋の本に引火させたくはないので、ここは碧眼系統の魔術に絞って対応していくことにしよう。



「どうだ! この動き! 劣等眼のキミにはついて来ることができないだろう!」



 ふうむ。なかなかのスピードである。


 ノエルが後手に回ってしまうのも無理はない。

 この状態のバースを相手にするのは、現代の魔術師たちには荷が重いような気がする。



「お前さえ! お前さいなければなァ! ボクの人生は幸せだったんだよおっ!」



 声を張り上げたバースが、背後から飛び掛かってくる。


 やれやれ。妙な言いがかりは止めて欲しいものだ。

 たしかに、たしかにだ。


 バースの人生が予想と異なる妙な方向に行ったのは、俺と出会ったタイミングが契機だったのかもしれない。

 

 だが、それは自己責任というやつである。

 

 思うに、自らを顧みることのできない性格こそが、この男の人生を破滅に導いた直接の原因なのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る