テッド VS バース
一方、その頃。
連日、研究会の見学会に参加をしていたテッドは、疲労した足取りに戻っていた。
(う~ん。酷い目にあったッス)
ここ数日のテッドは上級生のスポーツマンたちから誘われ、数種類の研究会の見学会に参加することになっていた。
テッドは頼まれたことに対してNOというのが苦手だった。
結果、そのスケジュールは日を増すごとにハードになって行き、体力自慢のテッドすらもヘロヘロにさせてしまったのである。
(早くベッドの上で横になりたいッス。あ。でも、その前にシャワーを浴びないと……)
そんなことを考えながらもテッドが角を曲がろうとした直後であった。
ゾゾゾゾゾッ! と。
突如としてテッドの背筋に悪寒が走った。
その感覚はテッドにとって全く経験したことのない未知のものであった。
アベルのような強者特有のものではなく、子供の頃に一度だけ遭遇した魔獣のものとも少し違う。
ただただ、不気味で生理的な嫌悪感を催すような不吉な魔力の気配。
振り返ったテッドは、すぐさま臨戦態勢に入っていた。
「だ、誰っスか!」
大きな声を上げたテッドは不吉な気配のする方角を振り返る。
そこでテッドを待ち受けていたのは、思わず目を疑うような衝撃的な光景であった。
「やあ。テッド」
「に、兄ちゃん!?」
果たして目の前にいる『この男』は、自分の知っている兄と同一人物なのだろうか。
少し見ないうちにバースの容姿は益々と不健康に痩せ細り、どこか人間離れしたものに変わっていた。
「な、なんスか。いくら兄ちゃんの頼みでも、その、魔術撲滅研究会とかいうのには入れないッスからね!」
「フフフ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
テッドの言葉を受けたバースは唐突に笑い始める。
一体ここ数日の間にバースの身に何が起きたというのだろうか。
豹変したバースの姿は、底知れない動揺を与えるものであった。
「そんなことは今更どうだっていいんだよ! なあ。テッド。ボクに秘密図書館の居場所を教えてくれないか?」
「な、なんスか? それ?」
「とぼけても無駄だよ。テッド。お前のトモダチ、あの忌々しい劣等眼が秘密図書館を出入りしているというネタは上がっているんだ!」
「し、知らないものは知らないッスよ!」
学園地下に存在する『秘密図書館』は、古代魔術研究会に所属する生徒と一部の教師しか存在を知らないトップシークレットであった。
ここ最近、アベルから離れて様々な研究会に参加をしていたテッドは、本当に『秘密図書館』について何も知らされていなかったのである。
「兄ちゃん。顔色が本当に悪いッスよ。早く病院に行った方が……」
「黙れえええええええええェェェ! ボクに同情するんじゃなァァァあああああああああああああああああああい!」
バースは緑色の眼を充血させて、今にも声が枯れそうなほどに大きく声を張り上げる。
異変が起きたのは、その直後のことであった。
ミキミキッ!
ミキミキミキミキッ!
突如としてバースの体は音を立てて変形いく。
その体色は血を塗したかのように赤黒く染まり、背中からは無数の新しい腕が生えていた。
合計で8本の手足を持つその姿は、どことなく蜘蛛の姿を彷彿とさせるものがあった。
「なっ。なっ。なっ……」
「ふふふ。テッド。キミにだけは特別に見せておこうかな。生まれ変わったボクの真の力をね」
逃げ出そうとしても、恐怖で思うように体を動かすことができない。
変わり果てた兄の姿を前にしたテッドは、絶望の感情に暮れるのであった。
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