空中散歩
それから。
思いがけないところでエリザの窮地を救った俺は、放課後の空中散歩を楽しんでいた。
茜色に染まった空をゆっくりと飛んでいく。なかなか悪くない景色だ。
件の先輩魔術師を蹴散らした俺たちは、他にもエリザと同じような被害に合っている女生徒がいないか確認することにした。
だが、結論から言うとこれは杞憂だったみたいだ。
エリザ以外の他の女生徒たちはむしろ、この見学会を裕福な貴族の上級生と近づくことができる『出会いの場』として捉えているフシがあり、俺たちは完全に邪魔者として扱われることになってしまった。
どうやら新入生の女生徒に対して薬を飲ませるような不届きものは、先程の男くらいのものだったらしい。
他の参加者たちは極めて牧歌的な、和気藹々とした雰囲気だった。
「わあ。凄いわ! このレオっていう子、さっきのドラゴンよりもずっと早いわね!」
背後からエリザの弾むような声が聞こえてきた。
色々とあったが、こうしてエリザが楽しんでくれているようで何よりである。
エリザはドラゴンに乗るのを誰よりも楽しみにしていたからな。
このまま嫌な思いをしたまま帰宅するのは、あまりに不憫だと思っていたのである。
「ねえ。アベル……」
不意にエリザは少しだけ声のトーン落として俺の耳元で囁いた。
「……このまま時間が止まっちゃえばいいのにね」
はあ。この女は唐突に何を言い出すのだろうか。
流石の俺も『時間停止魔術』までは習得していないぞ。
だが、これに関しては理論上不可能ではないと考えている。
少なくとも後10年、いや5年もあれば、実践的に使用できる『時間停止魔術』を完成させるつもりではある。
「今日のアベル……。凄く格好良かった……」
背中からギュッと手を回して、体を密着させながらもエリザは言った
やれやれ。
お前はよく男を勘違いさせるような台詞を口にできるよな。
そういう隙を見せるから、今回のような事件に巻き込まれるのではないだろうか。
そうだな。
前々から感じていたのだが、コイツは少し危なっかしい。
そういう意味では、悪意を持った連中に付け込まれないよう、保護する目的で俺の目の届くところに置いておいた方が良いのかもしれない。
「なぁ。エリザ。お前に紹介しておきたい研究会があるのだが――」
だから俺はエリザに対して、先日見学に足を運んだ『古代魔術研究会』の存在を知らせておくことにした。
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