竜との戦い
「お前はそのまま死んでおけえええ! 風刃連弾(ウィンドブレット)!」
怒気を孕んだ声を上げた金髪の男は、その場で魔術を発動する。
ふうむ。
おそらく俺の体を崖の下に吹き飛ばす狙いなのだろう。
使用している魔道具が高級品だからだろうか?
発動された魔術には追加構文が施されており、威力に関しても学生が使うものとしては高水準のものになっていた。
だが、まあ、この程度の相手であれば魔術を使うまでもないな。
魔道具に頼って発動した教科書通りの魔術ほど避けやすいものはない。
俺は先輩魔術師の発動した魔術の間を縫うように移動すると、下半身を捻って、拳銃型の魔道具を蹴り落とす。
「な、なにっ!?」
武器を取り上げられた上級生は、芝居がかった口調で驚きの声を上げていた。
魔道具を取り上げると一気に無力化されるのが、現代を生きる多くの魔術師たちの共通の弱点だ。
だが、今回に関して言うと、敵の本命は別のところにあったようだな。
やれやれ。
この男、魔術師としてのレベルは下の下も良いところだが、悪知恵だけは回るようだな。
「ハハッ! かかったな! 劣等眼!」
「アベル! 危ない!?」
エリザに警告されるまでもなく分かっていたことだ。
いくら子供の体とは言っても、こんなに分かりやすい奇襲攻撃に気付けないほど俺も落ちぶれてはいない。
「突き飛ばせえええええ! セイントグローリー!」
「グルウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
振り返ると、そこにいたのは地面に体が擦れるギリギリの低空飛行で、突進してくる若竜の姿があった。
ふむ。
この男にとって先程の魔術は、ドラゴンに奇襲攻撃をさせるための時間稼ぎに過ぎなかったのだろう。
さてさて。どうしたものか。
魔術を使って向かってくるドラゴンを始末するのは簡単であるが、流石にそれは非情というものだろう。
主人に命令されているというだけで、このセイントグローリーとかいう若竜に罪はないからな。
悩んだ挙句に俺は、ドラゴンに対するダメージを最小限に留める方法を選ぶことにした。
《身体強化魔術、指力強化》
体内の魔力を人差し指の先端部分に集中させた俺は、全速力で向かってくるドラゴンを迎え撃つ。
コツンッ!
これでよしっと。
狙いを付けた俺の人差し指は、無事にドラゴンの額を捉えることになった。
「ふう。流石ドラゴン。なかなかのパワーだな」
他でもない俺が相手だからこそ力比べが成立しているが、凡百の魔術師が立ち向かえば、たちまち紙切れのように吹き飛ばされていただろう。
「な、何をしているんだ! セイントグローリー! 遊んでいる場合ではないぞ!」
「グルウウウウウウウウウウウウウウ!」
残念だったな。
この力比べは、俺に分があったようだ。
全身の力を込めて俺を押し込もうとするセイントグローリーだったが、先程から軸足を一歩たりとも前に進めることができないでいるようだった。
「止まれ」
殺気を向けながら命令をすると、若竜はピタリと動きを止める。
よし。
これで必要以上にドラゴンを傷つけることはなくなりそうだ。
竜という生物は人間以上に力の差に敏感なのだ。
キチンと力の差を見せてやれば、これ以上、無謀な戦いを挑んでくることはないだろう。
「ソイツを連れてどこかに消えろ。そうすれば命までは取らないでおいてやる」
「きゅううううう」
俺の命令を受けた若竜はクルリと進行方向を変えて、自らの主人の元に向かっていく。
「おい! 何をする気だ! セイントグローリー! お前の敵はそっちに……」
「きゅうううううううううう!」
若竜の前足によって、体を鷲掴みにされた先輩魔術師は、中吊りになりながらも大空に向かって飛んでいく。
「うわっ! うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ふうむ。
なかなかスリリングな体勢で飛んでいるのだな。
せっかくの機会だ。
先輩魔術師にはこのままゆっくりと空の旅をエンジョイして欲しいものである。
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