岩山の戦い

 やれやれ。

 見学者である俺に曰く付きの問題竜を押し付けてきた時点で、何か嫌な予感がしていたのだが……。


 老竜レオンハルトに乗って、切り立った岩山の上を訪れてみると、流石の俺も予想していなかった光景がそこにあった。



「ぼっ! ぼまえはっ、劣等眼!?」



 老竜に顔面を蹴り飛ばされた金髪の上級生は、鼻血を噴き出しながらも俺の方を睨んでいた。



「ゴ、ゴロス! 絶対にゴロしてやる!」


 

 無論、ドラゴンに蹴り飛ばされて、この程度の傷で済むはずがない。


 俺は寸前のタイミングで防御魔術を発動することによって、この男の命を救ってやったのである。


 だから感謝されることはあっても、恨まれる覚えはないのだがな。



「大丈夫か? エリザ」


「嬉しい……。アベル……。来てくれたんだ」 



 老竜レオンハルトから飛び降りた俺は、エリザの元に駆け付ける。


 ふうむ。

 どうやらエリザは体が痺れて上手く立ち上がることができないでいるらしい。


 この様子だと、何かの薬を盛られているな。

 解毒魔術を使用すれば、なんとか治療できそうではあるが、その前に1つ片付けなければならない問題があるようだ。



「先輩。こんな山奥で暴力沙汰とは……。あまり穏やかではありませんね」



 まさかこの平和な時代で、強姦未遂の現場に遭遇するとは予想外であった。


 なるほど。


 どんなに時が流れても人間の持つ悪意というものは消えることはないのだろうな。


 見ての通り、周囲は切り立った岩場であり、生物の気配はまるでない。


 俺が駆け付けなければ、今頃は取り返しのつかないことになっていただろう。



「ダマレ! 黙れ黙れ黙れェ! ロクに魔術も使えない出来損ないがっ! ボクに指図するんじゃぁない!」  



 立ち上がった先輩は激昂して、腰に差した拳銃型の魔道具を抜く。


 はあ。久しぶりに聞いたな。こういう台詞。


 俺のいた200年前の時代、俺の持つ琥珀色の眼は、《最強》にして《最悪》の象徴だった。

 何故ならば、人間と対立をする魔族のうち、実に九割以上が俺と同じ《琥珀眼》を持っているからである。


 だが、時代の流れと共に《琥珀眼》に対する人々の認識は変わっていた。


 扱いこなすまでに時間のかかる《琥珀眼》は何時の間にか、ロクに魔術を使えない『落ちこぼれ』として見做されるようになっていたのだ。

 


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