古式魔術の弱点


「ふふふ。残念ながら当然の結果だよね。魔道具なしの欠陥魔術なんて、所詮はこの程度のものでしょ?」


「クッ…………」



 エリザが上手く魔術を構築できなかった理由。

 それは彼女の中に芽生えていた『恐怖心』に原因があった。


 一般的に魔道具を介さない《古式魔術》は、術者の精神状態によって、大きく精度が左右されるものなのである。


 汎用性の高い古式魔術に取って代わり、魔道具を用いた現代魔術が主流となったのは、こういった状況を選ばない利便性が優先された結果でもあった。



「ふふふ。先輩であるボクに盾突くとは……。いけない子だねぇ」


「あっ……。あっ……」



 ブライアンに髪の毛を触れられたエリザは、恐怖によって思うように声を出すことができないでいた、


 こうなってしまうと魔術を構築することは困難である。


 今回のことで己の力不足を痛感した。

 

エリザのメンタリティは、古式魔術を自在に扱いこなすことができるほど十分なものではなかったのである。


 

「助けて……アベル……」



 絶望的な状況下の中、やっとの思いでエリザが口にしたのは、ここ最近、ずっと気になっていた男の名前であった。


 そうだ。

 ここに来る前にアベルは1匹の竜を借り受けていたはずだ。


 おそらくアベルは今頃、竜に乗ってこちらに向かってきているに違いない。


 だがしかし。

 エリザにとっての唯一の希望は、次に放ったブライアンの一声によって粉々に打ち砕かれることになる。



「アベルゥ? フフフ。なぁんだ。あの劣等眼のことか」



 エリザの言葉を受けたブライアンは唐突にクスクスと笑い始める。



「ねえ。知っている? アベル君に貸した竜のことなんだけどね。それはもう劣等眼の彼にお似合いの最悪の竜でさ。

 ロクに動けないくせにプライドばかり高いんだ。誰もアイツがまとも飛んでいるところを見たことがないんだよ?」


「そ、そんな……ことって……」


「ククク! アハハハッ! あの劣等眼なら今頃、クソ竜に蹴り飛ばされて、死んでいるんじゃないのかな!?」 



 不意にエリザの目尻に涙が伝った。

 抵抗しようにも薬の効果で体を動かすことができない。


 ブライアンはエリザの上に跨ると徐々に自分の体を近づけていく。



「安心していてよ。大人しくしていれば、悪いようにはしないさ」



 ブライアンが唇を舐め回しながらエリザの服を脱がせようとした瞬間であった。



「失礼。そこ、通るぞ」



 聞き覚えのある声と共に、1体の巨大な竜がエリザの眼前を横切った。



「どわあああああああっ!」



 突如として巨大竜に顔面を蹴り飛ばされることになったブライアンは、無様にも地面の上を転がり回ることになる。


 唐突な展開を受けたエリザは、瞬きをすることすらも忘れて、唖然としていた。


 何故ならば――。

 そこにいたのは絶対に現れるはずのない憧れの人、アベルの姿だったからである。

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