怪しげな岩場
一方、その頃。
ここは王都ミッドガルトから10キロほど離れた山岳地帯である。
アベルより一足先に離陸をしたドラゴンライド研究会のメンバーたちは、それぞれのペースで空の旅に出ていた。
(すごい! 街がもう、こんなに小さく見える……!)
最初は嫌々の様子だったエリザであったが、憧れのドラゴンに乗ってからというもの、すっかり機嫌を取り戻すようになっていた。
(はあ……。これで後は前に乗っている人がアベルだったら最高だったんだけどなあ……)
残念であるが、こればかりは仕方がない。
エリザの乗っている竜は他と比べて一回りサイズが大きいが、それでも3人が同時に乗るのは厳しいものだったのである。
「エリちゃん。どうしたの? 考え事?」
「えっ。ああ。はい」
「ちょっとそこの岩場で休憩しようか」
代表者ブライアンの一声により、近くにあった切り立った岸壁の上に降り立った。
(凄い。ドラゴンに乗れば、こんなところまで来られるんだ……)
今日という日がなければ絶対に訪れることはなかっただろう。
少し手を伸ばせば届きそうなくらいに雲が近い場所にある。
希代の絶景スポットに立ったエリザのテンションは最高潮に達していた。
「この景色を見ながら食べるスコーンが最高なんだよね。良かったらエリちゃんも一緒にどう?」
「わぁ! いいんですか!?」
「うん。ちょっと待っていてね。今、一緒にお茶も入れちゃうから」
平常時のエリザであれば、初対面の男子と2人きり、という状況に対して、警戒心が働いていただろう。
だがしかし。
憧れのドラゴンに乗って気持ちが緩んだエリザは、男の仕組んだワナに気付くことができなかった。
(あれ……。なんだか急に……体がだるく……)
暫くスコーンを楽しんでいたエリザはそこで異変に気付く。
視界がぼやけて思うように体を動かすことができない。
手足の自由が効かなくなったエリザは、大好物のスコーンをポロリと地面に落としてしまう。
「クククッ。エリちゃんってばタフな子だね~。薬が効くまでに予想以上に時間がかかっちゃったよ」
先程までの優しげな雰囲気から一転。
気付くとブライアンは、態度を豹変させていた。
「……どういうこと?」
「アハハ! 恨むなら自分のエロイ体を恨んでよね。1年のくせにデカイ乳しちゃってさ。これは犯されても文句は言えないでしょ?」
「クッ……!」
危険を察知したエリザは、即座に反撃の行動に移る。
おそらく、この一撃が明暗を分けるカギとなるだろう。
幼い頃から厳しい鍛錬を積んでいたエリザは、現代の魔術師の中では珍しく、魔道具を介さないで魔術を発動する術を身に着けていたのだった。
「……火炎弾(ファイアーボール)!」
「アハハハハ! なんだい? この貧相な攻撃は!」
次に男の取った行動は、エリザを更なる絶望に追いやるものであった。
どういうわけかブライアンは目の前の火炎玉を手で払って、かき消してしまったのである。
(ど、どういうこと……!? アタシの魔術は完璧だったはずなのに……!)
千載一遇のチャンスを逃してしまったが、ここで取り乱すわけにはいかない。
続けざまエリザは2発目、3発目の火炎玉を使って反撃に出ることにした。
「そんな……。どうして……」
だがしかし。
そこで更なるアクシデントがエリザを襲った。
エリザの使用した火炎玉は、全て不発に終わり、男の体に命中することなく空気の中に消えていくことになったのである。
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