老竜の目覚め
「不思議な話ですね。どうしてそんな凶悪な竜を未だに飼い続けているのです?」
この世界に竜ほど飼育コストのかかる生物はいない。
俺のいた200年前の時代では、役に立たなくなった竜は、すぐさまバラバラに解体されて、市場に売却されたものである。
「それがよぉ。レオはどうやら他の若い竜に偉く慕われているみたいでさ。役に立たないからと言って、簡単に処分するわけにはいかねーんだよ。竜っていうのは、人間が考えている以上にデリケートな生物だからよ」
なるほど。
そこまで聞いたところで俺は、このレオとかいう竜の秘された力について大まかに察しをつけていた。
竜という生物はプライドが高く、決して、自分より弱い同族を敬ったりしないのだ。
つまりはこの老竜の力は決して衰えてなどいない。
単に人間に使われることを疎んで、力を隠しているだけなのだろう。
「おい。起きているか」
声をかけて、体に触れると、レオンハルトは人間の顔のサイズくらいはありそうな大きな目を開く。
だがしかし。
その眼光は明らかにこちらを見下しているように思えた。
なるほど。
この老竜の『人間嫌い』は筋金入りのようだ。
まあ、今日会ったような上級生たちを相手にしていたら、人間不審に陥るのも無理のない話である。
だが、この反応は俺にとっても想定の範囲内。
俺のいた200年でもそうだった。
力のある竜というものは、往々にして、乗り手となる人間を厳選する習性があるのだ。
「――俺に従え」
俺が『ほんの少し』魔力を発して命令すると、老竜レオンハルトの体がピクンと跳ね上がる。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
大きく咆哮を上げるレオンハルトは、すっかりと眠気を吹き飛ばしている様子だった。
ふうむ。これは少し予想外だったかな。
どうやらこの老竜が隠し持っていた力は俺が予想していたもの以上だったらしい。
レオンハルトが発する闘気は、今まで俺が出会ってきた希代の名竜たちと比較をしても何ら劣らないものであった。
「スゲー! レオが、こんなにヤル気になっている姿、初めて見たぜ!」
豹変したレオンハルトの様子に誰よりも驚いた様子を見せていたのは、竜師ペペだった。
「なぁ。教えてくれよ。旦那は一体何者なんだ? 一瞬でレオを従えちまうなんて、只者じゃねーよ!」
「……別に。たいしたものではないですよ。ただの学生です」
「おいおい。バカ言っちゃいけねーよ。こう見えてオイラ、人間と竜を見る目に関してだけは自信があるんだよ!」
やれやれ。そう言われてもな。
200年前の時代に、勇者パーティーに帯同して、それなりに名を馳せていた魔術師は、転生をして死んだのだ。
少なくとも今の俺は、本当に単なる学生に過ぎないのである。
「それじゃ、この竜は借りていきますね。日が暮れるまでには返しに来ますから」
「ああ。おいってば!」
俺は竜師ペペの質問をスルーすると、柵を超えて竜舎小屋の出口に向かっていく。
ふう。
先行して飛んでいる連中からは、だいぶ離されてしまったみたいだな。
でもまあ、本気になったこの竜の力があれば直ぐに追いつくことができるだろう。
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