人間嫌いの老竜


「さあ。エリちゃん。外に出ようか。一緒に空の旅をエンジョイしようよ」


「……分かりました」



 代表者に連れられたエリザは心なしか表情を曇らせながらも、竜舎小屋を後にする。


 ふむ。

 残すところ竜舎小屋に取り残された見学会のメンバーは、俺一人になってしまったらしい。


 仕方がない。

 少し出遅れてしまったが、俺も指定された竜を借りて、エリザたちの後を追いかけることにするか。


 俺が竜のいると思しき、奥の部屋の扉を開こうとした直後であった。



「ちょっ。旦那ァ! 何をやっているんですか!?」



 突如として背後から大声を浴びせられる。



「失礼ですが、貴方は……?」


「オイラの名前はペペ。この小屋で竜の世話をしている使用人さ」



 なるほど。

 このペペとかいう男、年齢は俺たちとそう変わらないようだが、竜師としては、それなりのキャリアを積んでいるようだな。


 十分な入浴と睡眠を取っていないのか、髪の毛は油にまみれ、目の舌には大きなクマができている。


 爪の中に入っている汚れは、おそらく竜の排泄物だろう。


 不衛生極まりない姿ではあるが、俺としては変に小奇麗にしている先程の連中よりは好印象だ。


 俺のいた200年前の時代でも、竜に対して献身的に世話をする人間ほど、体がボロボロで汚れていたものである。

 


「それより旦那! 今、あんた、そっちの部屋に行こうとしたよな?」


「ええ。そのつもりでしたが」


「そいつは止めておいた方がいい。あの部屋にいる竜、レオンハルトには、かわらない方が身のためですぜ」


「一体何故ですか?」


「……まあ、こういうものは説明をするより、見せた方が早いかな」



 そこで竜師ペペは、奥の部屋の扉を開く。


 なるほど。

 これはまた見事な竜が存在していたものだな。


 中で眠っていたのは、先程エリザが賞賛した『セイントグローリー』とかいう竜よりも更に一回り大きなサイズの老竜であった。



「素晴らしい竜ですね。これほど見事な竜ならば、本来は王家に寄贈するべき代物では?」


「ハハッ……。レオはそんなに立派なものじゃねーよ」



 そこで竜師ペペは、いかに目の前の竜が狂暴なのかを声高に語り始めた。


 曰く。

 レオンハルトは齢100歳を超える老竜であり、この竜舎小屋で飼育しているドラゴンの中では一番の古株らしい。


 かつてのレオンハルトは、レースなどで名を馳せた競争竜であったらしいのだが、引退して、この竜舎小屋に引き取られるようになって以来、態度を一変させることになる。


 レオンハルトは人間の言うことに全く耳を貸さず、暴れ回った。


 なんとかレオンハルトを手懐けようとして、ケガを負わされた学生の数は、枚挙に暇がない。


 歳を重ねて力を落としたばかりか、人間に危害を加えることの多いレオンハルトは、この辺りでは有名な最悪の問題竜として扱われているのだとか。



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