放置行動

 ふう。この臭いを味わうのも随分と懐かしいな。

 竜舎小屋の中に入ると、ドラゴン特有の強烈な臭いが鼻につく。



 竜という生物が他の動物と明らかに違う点は、その驚異的なエネルギーの消費量にある。



 なんせ竜の体は巨大だ。

 純粋な体格だけで考えるのであれば他にも大きい生物はいるのだが、竜ほどの巨躯を誇り、なおかつ、飛行能力を有している生物は類を見ない。


 曰く。

 成長したドラゴンの1日の食事量は300キロを超えるという。


 無論、それだけの食事を取っているものだから排泄量は尋常ではなく、竜の世話係である『竜師』たちの一日中、排泄物の処理に追われることになるのだ。



「見てごらん。これがボクの愛竜セイントグローリーさ!」



 そう言って研究会の代表者の男がエリザに紹介をしたのは、緑色のウロコを持った1匹のドラゴンであった。



「凄い! アタシ、こんなに大きな竜を見るの、初めてかもしれないわ!」


 

 ふむ。エリザが賞賛するだけあって、悪くない竜だな。


 俺のいた200年前の時代、これほどの体躯を誇る巨竜を個人で所有できるのは、一握りの大貴族か、王族の血を引いた人間くらいのものだった。


 おそらくこの200年の間にドラゴンの飼育方法は研究され、効率化が進んで行ったのだろうな。


 魔術衰退の煽りを受けて竜まで劣化していないか不安だったのだが、とんだ杞憂だったらしい。



「えーっと。そこのキミ?」


「アベルです」


「うん。アベル君に貸し出す竜は、この部屋の奥に用意してあるからさ。後のことは好きにすると良いよ」



 やれやれ。エリザとは違って俺に対する扱いは随分と雑なのだな。

 まあ、こちらとしても過度な干渉を受けたくはなかったので好都合である。


 ここはお言葉に甘えて、好き勝手な行動を取らせてもらうとしよう。


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