ノエルとの約束
「凄い……! アベル……! もっと……! もっとワタシにこの本のことを教えて欲しい!」
結論から言うと俺の予想は的中していた。
元々ノエルは古代魔術に関する興味関心が高かったのだろう。
俺が本の読み解き方を教えてやると、ノエルは尻尾を振る子犬のようにして喜びの感情を露にしていた。
「ねえ。アベル。こっちの文章は……」
「すまないが、またの機会にしてくれないか。そろそろ日も暮れてくる頃だろうしな」
窓のない部屋の中にいると時が経つのを忘れてしまいそうになるが、俺の推測が正しければ、そろそろ帰りの支度を整えないと寮の門限に間に合わなくなるだろう時間帯だ。
アースリア魔術学園には、寮の門限が設定されている。
曰く。
この門限を破ると世にも恐ろしい罰則が待ち受けているという。
具体的にどんな罰則があるのかまでは知らないが、あまり悪目立ちもしたくはないので、可能な限りは寮の門限は守って行った方が良さそうである。
「ん……。分かった」
俺が帰りの支度を整えているとノエルの横顔は、あからさまに落ち込んだ様子を見せていた。
「そんな顔をするな。本の読み方なら、また今度教えてやる」
「本当?」
「ああ。だが、あくまでついでだ。俺の読書が終わった後の空いた時間だけだからな」
「嬉しい……。約束……」
ニコリと微笑んだノエルは、すっかりと先程までの機嫌を取り戻していた。
やれやれ。
我ながら面倒な約束を取り付けてしまったものである。
だが、他者から無償で施しを受けるのは性に合わない。
無料で他人の研究室を使わせてもらう以上、こちらからも何か見返りを用意するのが筋というものだろう。
こうして俺は成り行きにより、ノエルに古代魔術言語を教えることになるのだった。
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