蘇生魔術
しかし、意外だったな。
あの女がこんなにも後生大事に俺の与えた本を保存しているとは思わなかったぞ。
いや、違うか。
この本はあの日から多くの人の手に渡り、人々の争いを引き起こす火種となった。
だからこそ《禁忌の魔導書》などと呼ばれるようになったのだろう。
デイトナはあれでいて責任感の強い女だったからな。
争いの火種となった《禁忌の魔導書》を回収するため、あの手この手を尽くしたに違いない。
「アベル。どうかしたの?」
どうして今まで気づかなかったのだろう。
こうして考えてみると、ノエルの容姿はデイトナの若い頃にそっくりだな。
間違いない。
これまでの会話の内容から考えてもノエルが水の勇者、デイトナの子孫なのだろう。
「いや。なんでもない。少し昔のことを思い出していてな」
ふう。こうして改めて読み返してみると、なかなかに酷い内容だな。
今の俺の実力からすると、この本に書かれている内容は出来損ないも良いところである。
「もしかしてアベル……。この本、読めるの……!?」
心なしか目をキラキラと輝かせながらもノエルは問う。
はあ。読めるも何も俺が書いたものなのだから当然なのだが。
まあ、ノエルが驚くのも無理はない。
この本に書かれている魔術言語は現代では使用されていない、遥か古の時代のものだからな。
俺のいた時代、魔導書というのは通常、格式高い古代言語を使用するのが習わしとなっていた。
だが、この古代言語は現代の魔術言語ほど最適化が進んでおらず、解読に酷く苦労するのだ。
「ああ。たとえば、このページは蘇生魔術について書かれてある」
「……蘇生魔術!?」
「簡単に言うと人体と魂の相関性について書かれた本だな。たとえばこのページは――」
俺は本に書かれている内容を口頭でノエルに軽く説明してやる。
この本に書かれている魔術は一介の学生には理解できないようなものばかりなのだが、水の勇者デイトナの血を引いたノエルであれば、興味を抱くことくらいはあるかもしれない。
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