魔術撲滅研究会



「そんなことはどうでも良い。ところでテッド。キミはもう所属する研究会を決めたのかい?」


「い、いえ。まだッスけど」


「ふふふ。それは良かった。どうだろう。テッド。キミもボクたち『魔術撲滅研究会』に参加しないかい?」


「ま、まじゅつぼくめつ? なんスか。それ」



 テッドが尋ねるとバースは、声を張り上げて語り始める。



「よくぞ聞いてくれた! ボクたち『魔術撲滅研究会』は、世界の平和を守る、超法規的組織さ! この世界に蔓延る悪の魔術を滅ぼし、世界の秩序を取り戻す! そのために研究員たちは日夜、決死の覚悟で活動を続けているのだよ!」



 バースの言葉を受けたテッドは、得体の知れない恐怖感を抱いていた。


 たしかに。たしかに、だ。


 子供の頃からバースは何処か思い込みが激しく、神経質な部分があった。

 だが、久しぶりに再会したバースは、幼い頃から接してきた兄と同一人物であるとは思えない。


 その様子はまるで、何かに取り憑かれたかのように豹変しているようだった。



「に、兄ちゃん。申し訳ないッスけど、自分は師匠に魔術を教わっている立場なので……。兄ちゃんの所属する研究会には入れないッスよ」


「師匠……。ふふ。あの、アベルとかいう平民のことか」



 テッドが首を縦に振ると、バースはギリギリと自らの唇に歯を立てていく。


 これは幼い頃からのバースの癖だ。

 何か問題に直面をして上手く行かないことがあると、バースは自分の唇に歯を立てる癖があるのだ。


 だがしかし。

 テッドは未だかつて、ドロドロと血が滴るくらいに強く唇を噛んでいるバースの姿を見たことがなかった。



「お前、ウザいんだよ! そんなにあの、劣等眼のことが大事なのか!」


「どわっ!」



 激昂したバースはテッドの体を勢い良く突き飛ばす。

 バランスを崩したテッドは、鞄の中身をぶちまけながら、大きく尻餅を突くことになった。



「よく考えておくと良い。血の繋がった実の兄であるボクの言葉と、単なる平民に過ぎない劣等眼の言葉。どちらに従うべきなのかをね」



 一体何故? 

 どうしてあの真面目だった兄が変わってしまったのだろうか。

 

 豹変した兄の姿を前にしたテッドは、途方に暮れるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る