エリザの誘い
授業が終わって放課後になった。
さて。
そう言えば今日の放課後はノエルに会う約束をしていたのだったな。
本音を言うと誰かに会いに行くのは少し億劫な部分もあるのだが、あの部屋に眠っている本には興味がある。
俺は机の上に置いていた教科書をまとめると、足取りを早くして教室の出口に向かう。
「アベル。ちょっといいかしら」
廊下を出て少ししたところで何者かに声をかけられる。
「どうした。俺に何か用か?」
振り返った先にいたのは、俺にとっても見覚えのある人物であった。
茜色の髪の毛を持ったこの女、エリザは、入学試験以来、俺とは何かと因縁深い関係にある。
「よ、用事っていうほど大それたものではないのだけど……。ねえ。アベルってもう参加する研究会を決めたの?」
モジモジと指の先を絡ませながらもエリザは言った。
ふうむ。相変わらずにこの女は意図の分からない質問をするのだな。
一個人が所属する組織の情報に一体何の価値があるというのだろうか。
「いや。今のところは特に決めていないかな」
正確に言うと昨日は『古代魔術研究会』の見学に行ったわけだが、別に入会したわけではないからな。
ここは『特には決めていない』と答えるのが正解だろう。
「そ、そうなんだ! 明日の放課後、見学に行こうと思っていた研究会があるのだけど、一緒にどうかなって」
そう言ってエリザが手渡してきたのは、一枚のパンプレットだった。
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パンフレットの中には華々しく色の付いた文字が躍っていた。
ふうむ。ドラゴンか。
そういえば現代に転生したからというもの久しく乗っていなかったな。
せっかくエリザがこうして誘ってくれたのだ。
たまには気晴らしを兼ねてドラゴンと戯れるのも悪くはないだろう。
「分かった。そういうことならば構わないぞ」
「ほ、本当!? 絶対よ! 絶対だからね!」
それだけ言い残したエリザは、逃げるようにして俺の前から消えていく。
やれやれ。
相変わらずに騒々しい女だ。
しかし、今日のアイツは何時にも増して様子がおかしかったな。
日が差したように頬は赤く、心臓の音はこちらに聞こえるくらいに高鳴っていた。
そんなにドラゴンに乗るのが楽しみだったのだろうか?
まあ、深読みをしても仕方がないことだな。
俺の知る限り、エリザという女は猫のようにコロコロと気分が変わるやつなのだ。
おそらく今回のことにも特にこれといった大きな理由はないのだろう。
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