迷宮回路



「それじゃあ、ボクはこの辺で。彼女と上手くいくことを願っているよ」



 セガールと別れたので噂の『氷の女王』の元に行ってみる。


 なるほど。

 改めて近くで見ると、相当ハイレベルな美少女だな。


 眼の色は水属性魔術を得意とする碧眼。


 おそらく彼女の呼び名『氷の女王』は、眼の色から由来する部分もあるのだろう。


 でだ。

 ブースの前に足を運んだのは良かったのだが、肝心の『氷の女王』からは一切反応を得られない。


 本の世界に没頭しており、『心此処にあらず』と言った感じである。


 座っている机の上には、申し訳程度に『古代魔術研究会』と書かれたポールが置かれていた。


 ふうむ。

 古代魔術研究会か。名前からはどんな活動内容なのか検討もつかないな。


 他の研究会が熱心に勧誘活動をしているのとは対照的に、こちらはまるでヤル気のない様子である。



「おい」



 あまりに反応がないので声をかけてみる。



「なに」



 本の隙間から顔を出すようにノエルは言った。



「お前の所属する研究会に興味がある。説明を聞きに来たのだが」


 

 最初は敬語を使うことも考えたが、よくよく見るとノエルの制服の色は俺たちと同じ一年生を示すものであった。

 同学年の生徒に対して、わざわざ敬語を使う必要もないだろう。



「ん。なら、これを解いて」



 そう言ってノエルが差し出してきたのは、複雑な模様をあしらった小箱であった。


 ほう。迷宮回路か。

 随分と懐かしいものを出してくるのだな。


 迷宮回路とは複雑に書かれた魔術構文を解析する力を図るためのアイテムである。


 まあ、分かりやすく言うと魔術を用いた『知恵の輪』のようなものだな。


 描かれた魔術構文を理解して、正解のルートに魔力を流すと箱が開き、中を開けることができるという寸法である。


 ふうむ。どれどれ。


 この凝りようは既成品ではないな。

 おそらく彼女が作成したオリジナルの迷宮回路なのだろう。



「ほら。解けたぞ」



 俺が開いた箱を差し出すとノエルは一瞬、信じられないものを見ているかのように目を見開く。



「……もしかして壊れていた?」


「そんなはずないだろ。俺が解いたんだ」



 断言するが、当のノエルは未だに疑いの面持ちだった。



「ウソ。どんなに早く解いても1時間はかかるはず」



 はあ。やれやれ。

 この程度の問題に1時間とは、随分と俺も舐められたものだな。


 だが、たしかに学生が作ったにしてはよくできた問題ではあった。


 少なくともテッドだったら一生かかっても解けなそう気はする。



「とにかく約束は約束だ」


「……分かった。案内する」



 そう発言したノエルは、机の上に立てかけていた日傘を手に取った。

 ふう。こんな雲の多い日に日傘を差すとは、よほど太陽の光が苦手なのだな。



「付いてきて」


「ああ」



 こうして無事にノエルの出した課題をクリアーした俺は、古代魔術研究会とやらの研究室に案内されることになるのだった。


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