少年テッド



「へへーん! お前がリリスの弟だな!」


 いや。違うぞ。

 なんだよ。リリスを知っているということはアイツの知り合いか。

 

 見たところ普通の人間の少年だな。せいぜい、普通と違うのはその装いか。

焦げたような飴色の金髪は綺麗に整えられている。

 

 着ている服装が随分と派手だな。

 うるさいくらいに模様が施された赤い上着。シャツの襟には花の刺繍。


 なるほど。

 金持ちの坊ちゃまだな。または貴族と言ったところか?


 となれば。思い出すのはお隣さん。

 隣の巨大なあの豪邸。あそこの子供だろう。


 やれやれ。


 このお子様は、一体なんの用で俺たちの家に入ってきたのだろうか。

 

「喜べ平民! 今日からこのオレ、テッド様の舎弟にしてやろう!」


 ほうほう。この子供、言うに事欠いて俺のことを弟子に取ろうと言うのか。

 

 無視だ。無視。

 何時の時代にも普遍的に存在している悪ガキだ。



「おいおい、なーってばなー! リリスの弟ー! えーっとアベベ?」


「アベルだ」


「おーいー! アーベールー! 俺の舎弟になれよー! 舎弟って知ってるか? 弟分だぞー!」


「すまん。生憎と俺は師弟関係に興味がないんだ」


「なんだよー! なれよー、舎弟ー!」



 クソッ。なんて日だ。

 子供のように喚く金持ちのボンボンは一向に部屋から出て行ってくれる気配がない。


 仕方ない。

 子供を怯えさせるのは趣味じゃないが、このままだと読書に集中できそうにない。

少し脅かすか。

 

 決意を固めた俺はパタンと本を閉じる。



「1つ忠告をしておこう。俺に関わるのは止めておけ。この目、分かるだろう」



 本音を言うとこういう演技は得意ではないのだが、背に腹は変えられない。

 俺は、黄金に輝く眼──《|琥珀色の眼(アンバー・アイズ)》を使って侵入者を見下ろした。



 魔族と同じ琥珀色の眼は、この世界では不吉の象徴だ。 

 これでこいつは二度と俺にかかわろうとしないだろう。



「え。お前……その眼の色……!?」


 

 一歩下がったテッド少年に向かって、畳みかけるように眼光を向ける。

 よしよし。効いているみたいだな。


 ここはもうひと押し、更に脅しをかけておこうか。



「ククク。そうだ。何を隠そうこの俺は魔に連ねる眼の──」



 だがしかし。

 次にテッドが取った行動は俺の予想を大きく裏切るものであった。

 

 どういうわけかテッドは俺の顔を見て、大きく噴き出したのである。



「ぷ、ぷぷっ! マジか! こ、《琥珀眼》じゃんかー!」



 意味が分からない。

 テッドはゲラゲラと笑いながらも床の上を転がり回っている。



「初めて見たわー! マジでいたんだ! 《琥珀眼》って!」



 なんだ。どういうことなんだ。

 あまりに衝撃的な光景に開いた口が塞がらない。



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