侵入者
「なんだよ……これ……」
徹夜明けの朝。
陽ざしの中で辿り着いた『この世界の現状』に俺は驚きを隠せず声を上げた。
この世界で、大きく変わったのは2つ。
まず1つ目は、この世界において『技術革新』があったという事実。
これは喜ばしい進歩と言える。
使い方次第で様々なエネルギーに転換できる『魔石』の加工技術が発達したことによって、この世界の文明レベルは爆発的な進化を遂げることになった。
たとえば、昨日リリスが説明してくれた『電球』などがそうである。
魔石のエネルギーを抽出することによって、様々な産業でイノベーションが巻き起こり、人々の生活は激変していった。
だが、俺に言わせれば魔術で出来る範疇まで自動化する必要があるのかと鼻で笑ってしまうようなもの多々あったわけだが……。
そう。
まさに、そこなのだ。2つ目の俺が驚いた事実は。
「なんてことだ。魔術師たちのレベルが信じられないくらいに低下している……!」
たとえば、今俺が読んでいる本などがその典型である。
無駄に長ったらしく仰々しい言い回しをしているが、この本に書いてある技術は、200年前の時代では10歳にも満たない子供たちでも当然知っているような内容であった。
だが、この本などはまだマシな方である。
中には堂々と間違った魔術構文を載せて、紹介、解説をしている本まで存在していた。
お前は本当にその魔術構文を流して魔術を構築したことがあるのかよ?
ツッコミ所が多すぎる。
欠陥バグだらけで100パーセント暴発するぞ。専門家の俺が言うのだから間違いがない。
体を伸ばして椅子から飛び降りる。
少し部屋の換気をしようと思って扉を開くと、おや、扉の前にパンが置かれている。
『アベル様、朝食と昼食を置いておきますね。仕事に行ってきます。夕方過ぎには帰りますので家でおくつろぎください。 ──リリス』
おそらくこの書置きは、読書に集中している俺に対して気を利かせてくれたものなのだろう。
仕事。仕事か。
そうだよな。
リリスも何かしら仕事をして生計を立てているわけだ。
気になるな。
アイツは一体この人間だらけの村の中で何の仕事をしているんだろうか。
「クソッ……。そろそろ眠くなってきたな……」
先程から欠伸が止まらない。
やはりこの幼い体で徹夜はきつかったか。
ううん……。
そろそろ眠くなってきているしキリの良いところまで本を読んだら終わりにしようかな。
リリスの厚意に甘えた俺がパンを齧りながらも読書に戻った直後であった。
ガチャンッ!
玄関の扉が開く音。
ん? 家の中に誰かが入ってきたみたいだな。
明らかにリリスの気配とは雰囲気が違う。
元気に跳ねるような足音は、どんどん書庫の方に近づいてきて、何者かがババンッ! と扉を開く。
「たのもー!」
道場破りか何かか、お前は。
突如として書庫の中に足を踏み入れたのは、俺と同じ10歳くらいの風貌をした金髪の少年であった。
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