球遊び

「行くぞ。テッド」


「えっ。いいんスか!? 師匠!?」


「ああ。どのみち俺は球遊びにはあまり興味がないからな」


「……待て。小僧」



 俺が足早に立ち去ろうとすると、主将と呼ばれる男が低い声で呼び止める。



「貴様、今、なんと言った?」


「球遊びには興味がない、と言いましたが」



 オウム返しに続けると、『主将』と呼ばれる男のボルテージが分かりやすく上がっていた。



「オレはなぁ! そうやって人から差別されるが大嫌いなんだよ!!」 



 はあ。ダブルスタンダードも甚だしい。

 この男、他人は平然と差別する癖に自分が同じことをされると怒るのだな。


 怒った主将は大きく地面を蹴り上げて、俺に向かって突進してくる。



「どうだ! このタックルを受けても、まだ、球遊びと抜かせるか!」 



 なるほど。

 大きな口を叩くだけあって一応、構えは堂に入っているな。


 おそらく実際に競技で使用されるタックルなのだろう。


 だが、どんなに経験を積んでいたとしても、俺にとってはハエが止まるようなスピードであることには違いがない。

 

 俺は飛び込んでくる鎧男の足をひょいと掬って、バランスを崩して見せる。



「ぬがっ! ぬわあああ!」 



 バランスを崩した鎧男は、咄嗟に手にしたボールを天高くに放り投げてしまうことになる。



「クソオオオオオッ! ちょこまかと!」



 体勢を立て直した鎧男は、叫び声を上げながら再び俺に向かってくる。


 やれやれ。 

 こんな人目に付く場所で目立つような行動は取りたくはなかったのだけどな。


 仕方がない。

 ここは1つ、なるべく目立たないように穏便に場を治めておくことするか。



「先輩。ボールを返しておきますね」



 俺は空高くに上がったボールをキャッチすると、黒眼系統の魔術の初歩である物質強化魔術を発動させる。


 強度の上がったボールは本気を出して投げれば、人間の1人くらい訳なく殺すことができるだろう。


 俺は強化したボールをできるだけ軽く、鎧男の顔面に投げてやる。



「ふぎゃあああああっ!」



 俺のボールを受けた鎧男は、逆エビ剃りの形で後方に吹き飛んだ。


 はあ。

 いくら魔力で強化しているとは言っても今程度のボールも取れないようでは、鍛錬の底が知れてしまうな。



「スゲー! なんだよ! あの新入生!?」


「あの、アーミーフット研究会の鬼主将を一撃で倒しちまったぞ!?」



 やれやれ。

 俺としては、なるべく事を荒立てずに場を治めたつもりだったのだが、どうやら必要以上に注目を浴びる結果となってしまったらしい。


 次回からは、もう少し目立たないように問題を解決する方法を模索していかなければならないな。


 こうして面倒な先輩を押しのけた俺は、気を取り直して研究会を探すことにした。

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