予想外の先約
(ふう。そろそろ戦いも終わっている頃合いでしょうか)
いかにアベルが驚異的な力を持っていたところで、今回の刺客には太刀打ちできるがはずがない。
それというのも今回エマーソンが放った2人の刺客は、戦闘のプロフェッショナルだからである。
疾風のバルドー。幻惑のミュッセン。
この2人は同じ魔術結社クロノスに所属するエマーソンの同期であり、世界最高峰の魔術師と評される実力者だった。
基本的に他人を認めることのないエマーソンであるが、今回の2名の戦闘能力に関しては絶大な信頼を寄せていたのである。
(さてさて。どんな結果になっているか楽しみです)
2人の刺客には撮影用の魔道具を与えて、戦闘の様子を記憶するように依頼してある。
世界最高峰の魔術師を2人同時に相手にして、アベルという少年が何処まで戦えるか?
今回の結果で、アベルという少年の正体を掴むことができるに違いない。
胸を高鳴らせながら、エマーソンが彼専用の地下研究室に戻った直後であった。
「すまない。邪魔しているぞ」
「なっ――!?」
エマーソンは絶句していた。
何故ならば――。
部屋に入るなりエマーソンの視界に入ってきたのは、優雅にコーヒーを嗜んでいるアベルの姿があったからである。
「一体どうやって入ってきたのです? この部屋に施した結界は2つ、3つでは効かなかったと記憶していたのですが」
「そうか。あれは結界のつもりだったのか。すまんな。ペラペラの紙でも挟んでいるのかと思ったよ」
「…………」
エマーソンは主として、物体を変化、強化させることに長けた『黒眼』の持ち主である。
当然、他人の目を欺いて寄せ付けない空間を作成する『結界』については専門領域だ。
その為、彼の作り出した『結界』を破ることができる人間は、魔術結社クロノスの同胞の中にもそう多く存在していない。
「残念。やっぱりアベル君には敵わないなぁ。それで一体、ボクに何の用なのかな?」
しかし、不測の事態を受けてもエマーソンは冷静だった。
こういったケースにおいて重要なのは、闇雲に取り乱して相手にペースを握られないことである。
「単刀直入に言う。今すぐに俺の監視を止めろ」
静かに、だが、確かな意思が感じられる声でアベルは言った。
「ははは。何のことか分からないなあ」
「とぼけても無駄だ。お前の仲間が洗いざらい吐いてくれたよ。ここ最近、俺を監視するための魔道具を飛ばしていたのはお前だったのだろ?」
「――――ッ!?」
その時、エマーソンはアベルという少年に対して底知れない恐怖を抱くことになった。
2人が戦いに負けるということ自体が信じられないことなのだが、それ以上に信じられないのが、2人が口を割ったことにあった。
洗脳魔術の類を使用したのか?
戦闘のプロである2人が依頼人の名前を吐くようなことは、絶対に有り得ないはずであった。
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