外出届け

 その日は俺が学園に入学してから、初めてのまともな休日だった。


 これまでも休みの日は何度かあったが、生活環境を整えるのに忙しくて息抜きをしていられる余裕はなかったからな。


 せっかくの休日だ。

 久々に自室に籠って本でも読んでいたいという気持ちもあるが、生憎と今日は先約があった。



『ねえ。次の休みの日に、出かけてみない? 勉強を教えてもらったお礼をしたいの』



 俺は図書館でエリザに言われた言葉を思い出す。


 今日はエリザに王都を案内してもらう約束だ。


 エリザは美味しい物を多く知っているとか言っていたな。それに古本屋もあるとか。

 まあ、何にせよ王都に出てこの時代の最新の文化に触れるのは、良い経験になるのだろう。



 しかし、1つ問題がある。


 

 アースリア魔術学園では生徒が外出する際には規定の『外出届け』を書かなければならないというルールが存在しているのだ。


 基本的には受理されるものらしいのだが、時々、意地の悪い担当に当たった日には外出許可が下りないというケースもあるらしい。



「アベル様。どうされたんですか?」



 不運に当たらないことを祈りながら歩いていると、見知った人物に声をかけられる。



「……リリス。何をやっているんだ。お前」



 校門前に置かれた椅子に腰を下ろしたリリスは、いかにも手持無沙汰な様子で本を読んでいるようであった。



「はい。ワタシは生徒たちが無断外出しないか、見張り役をしているのです」


「なるほど。そういうことだったのか」



 それは都合がいい。

 俺に対して悪感情を持った教師が当番だった場合、外出許可が下りないという可能性も考えられた。


 特にあのカントルとかいう体育教師が当番だった場合は最悪のケースは覚悟していたのだが、リリスならば大丈夫だろう。



「こいつを受け取ってくれ」


「……外出届けですか。珍しいですね」


「ああ。少し王都に用事ができたものでな」



 俺の思い過ごしだろうか?

 書類を受け取ったリリスは、僅かに面白くなさそうな表情を浮かべているように感じられた。



「……そう言えばつい先ほど、アベル様と同じクラスのエリザという方からも同じような届けを受け取りましたよ」



 んん? なんだろう。

 今日のリリスは何時もと少し様子が違っているな。


 具体的に言うとリリスの口から、俺以外の生徒の話題が出るのは初めてのような気がする。


 どれどれ。

 面白そうなので少々からかってやるか。



「そうだったのか。それは奇遇だな」


「アベル様はエリザという人とお出かけになるのですか?」


「さあ。どうだろうな」


「……アベル様。少々、こちらに来て頂けませんか?」



 次にリリスの取った行動は俺を驚かせるものであった。

 何を思ったのかリリスは、唐突に俺を校門前の木陰に連れ込んだのである。



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