フェディーアの悩み
アースリア魔術学園に勤めるフェディーアは、自他共に認める美人教師として評判だ。
彼女の教える授業は、分かりやすいと生徒たちにも上々の評価で得ている。
フェディーアの能力は学園からも高く評価されており、27歳という若さで学年主任にポストを与えられることになっていた。
品行方正。才色兼備。
誰もが羨むようなスペックを持った彼女であるが、最近はとある大きな悩みを抱くようになっていた。
その日、王都の西区画に借りたアパートから出勤してきたフェディーアは、職員室前の廊下を歩いていた。
「リリスくん。ちょっといいかな」
探していた人物を見つけたフェディーアは、足早に近づいていく。
後ろからでも一目で彼女だと断定できるような抜群のスタイル誇る美女の名前は、リリスと言うらしい。
今年の春からアースリア魔術学園で働くことになった新任の教師である。
職歴不明。学歴不明。
学園理事長の推薦によって鳴り物入りで学園に入ってきたこと以外、その詳細の全てが謎に包まれている。
「この前、頼んでおいた資料なのだが……」
「はい。それに関しましては今朝のうちに提出しておきました」
「すまない。何時も助かるよ」
彼女が学園に入ってきた当初こそは、縁故採用に対して批判する声も少なからずあった。
しかし、今となっては誰しもがリリスの能力を認めて、一目を置くようになっていた。
もちろんフェディーアもその1人だ。
フェディーアにとってリリスの存在は、何から何までソツが無さ過ぎて不気味にすら感じられたくらいである。
「おはよう。リリスくん」
リリスと一緒に職員室に入ると、いの一番に体育教師のカントルがこちらに向かって声をかける。
「おはようございます。カントル先生」
「いやあ。相変わらずに美しいですなあ。どうですか? 今夜あたり。中央区画に美味しい麦酒(ビール)を出す店があるのですが」
「申し訳ありません。今日は遠慮しておきますね」
カントルからの誘いを受けたリリスは、そそくさと逃げるように自分の席に戻っていく。
こういうことは過去に何度もあった。
気に入った女性を見つけては手当たり次第に声をかける性分のカントルは、リリスにターゲットを絞っていたのである。
「ガハハハ! いやぁ、手厳しい。今日も振られてしまいましたか!」
「………」
いくら完璧超人なリリスとは言っても、こう連日カントルからのセクハラを受けては精神的に参ってしまうかもしれない。
そう判断したフェディーアは、先輩教師としてリリスのフォローに回ることにした。
「カントル先生。あまり彼女を執拗に誘うのは止めて頂けませんか」
「おやおや。これは珍しいですな。フェディーア先生の方から声をかけてくれるなんて」
注意を受けたカントルは、特に悪びれる素振りを見せずにフェディーアの体を上から下までなで回すように凝視する。
「もしかしてフェディーア先生、妬いているのですか?」
「……はあ? 何を言っているんですか?」
「惜しいですなあ。フェディーア先生も素材は良いですし、もう3歳ほど若ければオレのストライクゾーンに入ったのですけどなあ」
「…………」
あまりに一方的な発言を受けてフェディーアは唖然としていた。
たしかに。たしかに、だ。
この国において27歳の独身女性は『行き遅れ』『年増』と捉えられて仕方のない時期ではある。
時代の流れと共に結婚適齢期は遅くなってきたとは言っても、多くの女性は十代のうちに結婚をして、20台半ばで子供を持つ。
事実としてフェディーアの学生時代の友人たちは、それぞれ結婚をして家族を持ち、今となってはすっかりと疎遠な関係となっていた。
「大丈夫です。焦らなくてもその内きっと、フェディーア先生の前にも素敵な人が現れますって」
憐れむような表情でカントルは言った。
まさか新人教師をフォローするつもりが、逆にフォローされることになるとは思ってもいなかった。
(な、なんて日だ……。こんな屈辱を受けるのは初めてだ……)
ショックを受けたフェディーアは、呆然とその場に立ち尽くすのだった。
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