テッドの評価
それからのことを話そうと思う。
あの体育の一件以来、俺の日常は限りなく平和となった。
少なくとも、内部上がりの学生たちの表立った嫌がらせは無くなったように見える。
「師匠ー。そろそろ昼休みッスよー」
「ん。そうか」
「今日は学食にしませんか! 今週限定の定食が今日で食べ納めなんスよ!」
ふむ。それは少しだけ興味が惹かれるな。
曲がりなりにも貴族の家で生まれ育ったので、テッドの舌はそれなりに肥えていそうである。
テッドが認めるということは、本当に良質な昼食が出てくる可能性は高そうである。
「なあ。見ろよ。アレ」
テッドと2人で学食に向かっていると周囲の生徒たちからの好奇の視線が突き刺さる。
ここ最近はずっとこんな感じである。
あの日の体育の一件以来、俺、エリザ、テッドの3人は内部生たちから妙な注目を受けるようになっていた。
「あそこにいるのが巷で話題のG3の1人、『魔王テッド』だぜ」
「アイツが噂の……。ハウントで内部生をボコボコにしたやつだろ?」
やれやれ。
まさかテッドが魔王と呼ばれるような日が来ることなるとは、流石の俺も完全に予想していなかった。
もしも本当にテッドが魔王だったなら討伐も2秒で終わっただろうに。
「初めまして! 自分、テッドというものッス! 同じクラスの方々ッスよね!」
「えっ。あっ。はい」
視線に気付いたテッドが内部生たちに声をかけに行くと、男たちはしどろもどろになる。
「お近づきの印に自分の故郷の名物『雪玉まんじゅう』をどうッスか!」
制服の中から包装された『雪玉まんじゅう』を取り出すテッド。
お前、まだそんなものを持ち歩いていたのか。
これだけ内部生たちから差別されても、友達100人の目標を諦めていなかったんだな。
「ひえっ! た、食べます! 食べますから!」
「ボクたちのことは許して下さい!」
テッドから『雪玉まんじゅう』を受け取った内部生たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。
これは後で知った話になるのだが、内部生たちの間では『魔王テッド』が配る『まんじゅう』を受け取り拒否すると、後々に凄惨な報復を受けることになるという噂が広まっているらしい。
内部生たちの間ではテッドの配る『雪玉まんじゅう』は恐怖の象徴的な存在になっているのだとか。
「いや~。不思議なんスよね。最近、内部の人たちの態度が妙によそよそしくなっている気がするッス」
「なあ。テッド。そのことについて少し話があるのだが……」
「でもまあ、受け取りを拒否されていた時のことを思うと仲良くなれていますよね。一歩前進ッス!」
「…………」
ふむ。
本人が前向きに捉えているのであれば、俺の方から真実を話すのも野暮なのかもしれないな。
こうして長きに渡り続いた外部生たちとの確執は、一応の区切りが付けられることになるのだった。
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