その正体

「のう。エマーソン先生。結局、彼は……アベルくんは何者なのじゃろうか?」


「さあ。今のところは何とも言えませんね。ですが、安心して下さい。必ずや、このボクが彼の正体を見破ってみせますよ」



 実のところ、エマーソンがアベルのことを調べるようになったのは、他ならないミハイルの依頼であった。


 勇者の子孫であるミハイルは、アベルの正体が『風の勇者ロイ』の遺言にあった琥珀眼の魔術師と同一人物でないかと疑っていたのである。



「この映像は?」


「ボクが開発した偵察機から飛んできた映像ですね。アベルくんの様子がリアルタイムで分かるようになっていますよ」



 水晶モニターの中には、アベルが図書館で読書をしている様子が映し出されていた。



「いやはや。凄い技術じゃな。この魔道具があればアベルくんの正体が分かる日も近いのではないかのう」


「いいえ。それがそうでもないんですよ」



 その時、読書中のアベルがゆっくりと席を外して、図書室の窓を開ける。

 アベルの視線はたしかに100メートル先の地点にある偵察機の存在を捉えていた。



 ズガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!



 瞬間、破裂音。

 

 アベルの魔術によって偵察機が撃ち落される。


 水晶モニターの映像は暗転して、黒塗りになってしまう。



「撃ち落とされました。これで3機目ですね」



 さもそれが当然のことのようにエマーソンは言った。



「やはりダメでしたか。次は150メートル離れた地点から撮影できるよう、魔道具を改良しなければなりません」


「…………」



 普段の無気力な仕事振りがウソのよう。

 そう言って語るエマーソンの眼は少年のように輝いていた。



(参ったのう。これはワシの方もアベル君に対する評価を改めなければならないようじゃ……)



 現代において『若獅子』の異名を持ち、頭角を現している天才をここまで夢中にしているアベルという少年は果たして何者なのだろか。


 調べれば調べるほどにアベルに対する謎は益々と深まっていくのだった。

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