天才 VS 天才

 一方、その頃。

 ここは学園地下に設立されたエマーソン専用の研究所である。

 

 魔術界の異端児である、若き天才、エマーソンは、自作の端末を操作して、水晶モニターから流れる映像をジッと凝視していた。



「ほほう。前に来た時と比べて、随分と物が増えたのう……」



 そんなエマーソンの様子を覗きに部屋を訪れた初老の男が1人。


 アースリア魔術学園のトップ、学園長のミハイルである。


 この研究所は、エマーソンの作り出したオリジナルの結界によって、多重にロックをされており――。

 彼が許可する人物以外の立ち入りができないようになっていた。



「どうぞ。学園長。そこら辺でくつろいで下さい。散らかった部屋で申し訳ないですが……」


「いやいや。ワシは別に構わんよ」



 エマーソンの言葉は決して謙遜から出たものではない。

 後片付けのできない性格をしたエマーソンの部屋は、足の踏み場もないないほどに私物で溢れ返っていた。



「のう。エマーソン先生。同じ映像を繰り返し見ているようじゃが、何を調べているのじゃ?」



 先程からエマーソンが見ていたのは、先程の体育の時間でアベルが攻撃魔術を使っていた時の動画だった。


 エマーソンは独自に開発をした監視用の魔道具によって、ハウントの映像を記憶していたのである。



「ここ。ここです」



 エマーソンは自分の机の上にある硝子のように薄い水晶のモニター画面を指さした。



 そこに映っていたのは、先ほどの体育の時間だ。



 金髪の少年が大きく手を上げ、呪文を唱える。

 そして膨大な魔力で生み出された無属性の矢が降り注ぐ。


 エマーソンはその一連の流れを繰り返し再生していたのである。



「これで分かりましたか?」


「んあっ。こ、これは……!?」



 決定的な場面を繰り返して見ることで、遅れてミハイルも異変に気付く。


 勝負の決着を付けた最後の魔術は、金髪の少年が使ったものではない。


 魔力の流れが速すぎて今まで気づくことができなかったが、やや離れた位置にいたアベルが使ったものだったのである。



「素晴らしい偽装魔術です。ボクでなければ確実に見逃していたでしょう」



 メガネの奥から鋭い眼光を覗かせながらもエマーソンは言った。


 驚くべきは精巧な《偽装魔術》だけではない。

 通常、無属性魔術というものは扱いが難しく、魔道具を抜きに制御することは不可能と呼べる特別な分野であった。


 少なくともエマーソンは、これだけ巧みに無属性魔術を扱いこなす人間に出会ったことがなかった。



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