フォーメーション ファランクス

 それから。

 5分間のインターバルを挟んだ後、俺たちDチームの攻撃順が回ってくる。


 本来この時間は誰をシューターに回すのかという役決めに使うものらしいのだが、俺たちDチームの会議は直ぐに終わった。


 というのも、俺たちチームの中で攻撃役に適性がありそうな人材は限られていたからである。



「うっしゃああ! 今回の攻撃でさっきの失態を挽回するッスよ!」


「ふふふ。攻撃魔術を使わせたらアタシは止まらないわよ!」



 誠に遺憾ながら、エリザ、テッド、という代り映えのないメンバーを選出されることになってしまった。


 残念ではあるが、仕方あるまい。

 この2人が頼りになるわけではないのだが、他メンバーに比べてヤル気だけはありそうなのは確かだからな。



「エリザさん! みなさん! 頑張って下さい!」



 ああ。そうそう。

 前回のゲームで意外な奮闘を見せた黒髪の少女、ユカリは控えに回っている。


 チームの会議では頭の出来が芳しくないテッドを下げて、ユカリに入ってもらうというプランも上がったのだが、本人の申し出により却下されることになった。


 まあ、ユカリの控えめな性格は攻撃側(シューター)には向かないところもあるのだろうな。



「師匠! 絶対勝ちましょうね!」


「アタシたちの本気を見せつけてあげましょう! 気合よ! 気合!」



 鼻息荒く二人が言う。


 やれやれ。

 俺としてもここで内部生の連中を大人しくさせておきたいところではあるのだが、連続して目立つような行動を取ってしまうのは考え物である。


 理想を言うと、エリザとテッドの攻撃によって内部生が全滅してくれると面倒がなくて良い。



「プププ。聞いたか。アレ。気合だってさ」


「今時そんな精神論が通用するかっていうの!」



 コートには内部生チームのラビ7人が入る。


 相変わらず俺たちの方に対して侮蔑の視線を送っているが、その眼の奥には自信が見て取れる。


 ふむ。

 この様子だと何かしら勝つための作戦を練ってきているのだろうな。


 ホイッスルが鳴る。ゲーム開始だ。



「よっしゃ。軽くドブ魚たちをぶちのめしてやろうぜ。フォーメーション! ファランクスだ!」


「「「了解!」」」



 7人の学生たちは中央に集まると、互いに背中を預けて陣形を作る。


 なるほど。

 この時点で俺は敵チームの作戦を大まかに理解していた。



「集まって的を大きくしてくれたんッスかね! てやっ!」


「ふふふ。飛んで火に入る夏の虫ね!」



 まずテッドが術弾を放ち、遅れてエリザが真逆の方角から敵陣を攻め立てた。


 おそらく異なる二方向からの攻撃で、敵チームの混乱を誘おうとしたのだろうな。


 はあ。まんまと敵の策略にハマりやがって。



「北西! タイプ、|槍(スピア)だ!」


「南東! タイプ、円盤(ディスク)が来るぞ!」



 ふう。やはりこうなるか。

 内部生たちが一カ所に集まる理由――。


 それは互いに声を出し合うことによって情報を共有、死角を消すことにあったのだ。



「全然、攻撃が当たらないッス!」


「クッ……。魔術の威力ではこっちが圧倒しているはずなのに……!」



 うーん。少し面倒なことになってきたな。

 内部生たちのチームワークは、一朝一夕で身に付くようなものではない。


 おそらく準備校時代からそれなりに経験を積んで、競技のセオリーを身に着けていたのだろうな。


 もしこれが思い付きでやっている陣形ならば分かりやすい弱点が浮かび上がるところなのだが、そんな様子も今のところは見られない。



「ははっ! 外来種(ポイズンパーチ)の奴ら、タイミングを合わせた挟み撃ちすらできないみたいだぜ」


「基本の『き』だっていうのによ」



 ふう。

 おそらくこのまま2人に任せていては悪戯に時間を消費するだけだな。


 仕方がない。

 できれば使いたくなかった最後の手段を出すことにするか。

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