見え透いた挑発

 ホイッスルが鳴った。勝負が始まる。



「よーし。まずは一匹一匹、仕留めて行くぞ」



 シューターの一人が手袋型の魔道具に魔力を込めて|術弾(バレット)を発射する。

 

 放たれた術弾は槍型。スピードが速いタイプの弾だ。


 なるほど。

 速い、といってもこの程度なのか。


 俺たちチームの7人はこれを軽々と回避する。


 今回のゲームではラビ7人に対して、シューターは3人というバランスで行われていた。


 人数の面ではラビチームが有利。

 更にラビは20メートル四方のスペースを自由に動き回ることができるのだから『目に見える弾』を避けるのは、誰にもできるだろう。



「今度は後ろから来るッスよ!」



 だがしかし。

 このゲームのキモはいかに『視えない術弾』に対処できるかということである。


 3方向からの攻撃を完全に目視することは不可能に近い。


 このゲームは『死角から迫る術弾(バレット)を避けられるか』という部分が勝敗を分けることになりそうだな。



「うわっと」



 テッドは軽い身のこなしで背後から発射された術弾を避けた。

 

 流石は野生児だな。

 術弾が発射された時に生じる空気の振動に反応したのか。


 しかし、他の生徒たちの場合は早々上手く避けることができないだろう。



「んわぁっ!」



 そらみろ。言わんこっちゃない。

 チームメイトの1人が死角から発射された術弾に命中してしまった。


 激しい破裂音が上がり、術弾から発生する衝撃波に耐えられず、男は尻餅を突いて転倒してしまった。


 なるほど。

 無属性魔術の術弾は、威力は少なく殺傷能力は皆無だ。


 だが、やはり魔術は魔術。

 タイミング良く身体強化魔術を発動させてガードしなければ多少は痛いだろう。

 

 おっと。今度はバカ正直に真正面から撃って来たな。


 ん。待てよ。

 この術弾は今までのものとは少し性質が違うぞ。



「あ、あれ!?」


「どうしてっ!?」



 2人のチームメイトに術弾が命中して、転倒してしまう。


 やれやれ。

 まさか無属性魔術に《標的追尾》の追加構文を施してくるとはな。


 事前の説明では与えられた魔術構文を書き換えることは禁止していたはずなのだが?完全なルール違反である。



「ちょっとアンタ! 今、ズルをしたでしょ!」



 相手の不正を見破ったのはエリザも同じだった。

 軌道に変化を付けやすい《円盤型》ならともかく、スピード特化の《槍型》が手元で曲がってくるのは不自然だからな。


 十中八九、内部生たちは不正に改造した手袋型の魔道具を事前に用意していたのだろう。



「おいおい。妙な言いがかりは止めてくれよ」


「何か証拠があるのか? 尻デカ女」


「~~~~っ! し、し、し、尻デカ女ですって!?」


「熱くなるな。エリザ」



 やれやれ。世話の焼けるお姫様である。

 意図して相手の動揺を誘う言葉を投げかけるのは、戦闘において定番中の定番とも呼べる作戦である。


 俺は猫でも掴むようにエリザの首根っこを引っ張る。



「えっ。何っ」



 瞬間、エリザの顔の目の前を術弾が通り過ぎて行った。



「横から撃ってきていた。周囲への集中が散漫になっていたぞ」


「……あ、ありがとう。アベル」



 エリザが頬を赤くして礼を言ってきた。


 ふむ。素直な所もあるんだな。

 普段もこれくらい大人しければ非の打ちどころがない女なのだが、つくづく残念なやつである。


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