入学式

 それから。

 ついにやってきた入学式の当日。

 

 学生寮を出た俺たちは、足取りを早くして入学式の会場である大講堂に向かっていた。



「やれやれ。なんとか遅刻は免れたみたいだが、俺たちが最後みたいだな」


「ううう。も、申し訳ないッス! 自分、枕が変わると途端に寝つきが悪くなる性分なんスよね」


「まさかお前にそんなデリケートな一面があるとはな……」



 そういえば忘れがちだが、テッドのやつも一応貴族だったんだよな。


 とにかくまあ、時間通りに会場に到着することができたので良しとしておこう。


 目の前にある深茶色の木製の扉は、よく見れば細やかな彫刻された芸術品のような扉だ。


 流石は国内トップクラスの魔術学園と謳われていただけのことはある。

 学生の質はともかく、この学園、やたらと金だけはかかっているようだな。



「どうしたんスか。師匠?」



 ふむ。この扉、何か魔術構文が組み込まれているな。


 解析を終える。

 なるほど。まさに新入生歓迎、というやつか。


 しかし、この構文だと、俺が扉に触れたら随分と目立ってしまうことになりそうだな。


 かといってテッドに扉を開けさせることになると、せっかくの『仕掛け』が見られないか。それはそれで勿体ない気もする。



「テッド。俺が扉を開けるから、お前が前を歩け」


「えっ。どういうことッスか?」


「理由はまあ、扉を開けたら直ぐに分かるはずだ」



 俺は半ば強引にテッドを説得すると扉を開いて、テッドに先頭を歩かせる。


 

 カタカタ。

 カタカタ。カタカタ。



 不意に歯車が回るような音が鳴る。


 ふむ。

 誰が考えたのかは知らないが、なかなか悪くないセンスだ。


 俺たちが扉を開けた瞬間、通路に置かれていた人形たちが独りでに動き始める。


 さながらそれは、妖精たちのワルツでも見ているかのようであった。



「な、なんッスかこれ!?」


「なんてことはない。簡単な付与魔術だ」



 これは昔からある魔術だ。

 扉を開ける者の魔力に呼応して、仕掛けが動き出すように付与魔術が掛けられているのだ。

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