再会
「と、とにかく1つ食べてみて欲しいッス。自分の故郷の、自慢の味で……」
「黙れ! 臭いんだよ! 外来種(ポイズンパーチ)がっ!」
男の一人が手を払う。
バランスを崩したテッドは両手に抱えた紙袋を手放して、床の上にドシリと尻もちをついた。
「こんなゴミ! 口に入れられねえ、よっと!」
次に男の取った行動は、俺を唖然とさせるものであった。
何を思ったのか、男は食物の入った紙袋を蹴り飛ばしたのである。
紙袋の中からまんじゅうが飛び出して、コロコロと廊下の上を転がっていく。
やれやれ。酷いことをする。
この時代の子供は両親から、『食べ物を粗末にするな』と教わってこなかったのだろうか。
「うわあああ! じ、自分のまんじゅうがー!」
廊下にゴロゴロ転がったまんじゅうを目にしてテッドは頭を抱えていた。
せっかく用意したまんじゅうが無駄になったのが、よほど悲しかったのか、パニックになっているようだ。
流石に止めに入るべきか。
俺がテッドに助け舟を出すべきかどうか考えてた時であった。
「そんなに言うなら1つ貰おうかしら」
まんじゅうが転がって行った先に見覚えのある茜髪の少女がいた。
彼女の名前はエリザ。
入学試験以来、俺とは何かと因縁深い関係にあった。
久しぶりに再会したエリザは学園指定の制服、プリーツスカートを見事に履きこなしていた。
エリザは転がってきた雪玉まんじゅうを拾い上げて、啄むようにして小さな口の中に入れる。
「ううーん。まずまず、70点ってところかしら。不味くはないのだけど、もう少し地元ならではの特色っていうのが欲しいところね」
ふう。暫く会っていなかったが、相変わらずみたいだな。
このエリザとかいう女、見てくれだけは非の打ちどころがないのだが、口の悪さが玉に瑕である。
「ゲエエエエエ!? この女、床に落ちたもんを食いやがったぞ!?」
「信じられねえ。品がないにも程があるぞ! これだから外来種は嫌なんだよ!」
エリザの突拍子のない行動を目にした男たちは、ギャーギャーと騒ぎ始める。
さて。
果たして本当に品がないのはどちらかな。
おそらくエリザが地面に落ちた食物を口にしたのは、彼女なりにテッドのことを励ます意図があったのだろう。
仕方がない。
本当は面倒事に巻き込まれるのは避けたかったのだが、これ以上放置すると余計に面倒な結果になりかねない。
特にテッドはともかく、短気なエリザは何をしでかすか分かったものではないからな。
「2人とも。その辺にしておけ」
「はぁぁん? なんだ、お前?」
仲裁のために前に出ると、男たちは一斉にこちらに対して視線を向ける。
しかし、その直後。
俺と視線がぶつかるなり男の1人が口元を緩めて噴き出した。
「なぁなぁ。というか、見ろよ! コイツの目!」
「ギャハハハ! これマジ? 今年の外部生には、魔術の使えない劣等眼がいたのかよ!」
そうか。以前にリリスが言っていたような気がする。
このアースリア魔術学園には、『準備校』から上がってきた『内部生』と、俺のように外部から受験をして入ってきた『外部生』の二種類が存在しているらしい。
なるほど。
これで先程の話と繋がった。
こいつらが言っている『ポイズンパーチ』とは、俺たち『外部生』を指しての蔑称だったのだろう。
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