悲惨な現状

 それから30分後。


 ふう。どうやら俺の心配は杞憂に終わったようだな。

 もともとの素材が良かったからか、思っていたよりも素早く正確に刻印を施すことができた。



「これで良し。着てみろ。テッド」



 この服に使われているのは、昔から魔術攻撃に耐性があると有名なグリフォンの翼を糸状にした物だ。


 昔は大量生産が効かずに一部の貴族のみが使用していた『グリフォンの翼』であるが、現代の技術を以てすれば、安価に作ることができるのだろう



「おおー! なんか、こう、良い感じッス! 体が一気に軽くなった、みたいな!」



 そうか。それは何よりだ。

 無論、テッドの制服に施した刻印は、この学園のレベルを考え相応にレベルを落としてある。


 あまり本格的な刻印を施してしまうと悪目立ちしてしまいそうだしな。



「じゃあ、さっそく自分はこれを着て、まんじゅう外交に行ってきますね」


「まんじゅう外交? なんだそれは」


「これっスよ。これ」



 そう言ってテッドが取り出したのは、ランゴバルト領名物(?)の『雪玉まんじゅう』だった。



「ご近所さんに配ってくるッスよ。これで友達100人を目指間違いないッスー!」



 それだけ言い残すとテッドは、どっがーん、と扉を開けて、俺の部屋を後にする。


 やれやれ。相変わらずに騒がしいやつだな。


 友達100人か。

 突拍子のない目標にも聞こえるが、良くも悪くも何も考えていないテッドであれば、案外達成できてしまえるのかもしれないな。


 少なくとも、この時の俺はまだ、この学園の置かれた悲惨な現状を知らずに、そんなことを考えていたのだった。


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