制服改造
一年生棟2階の238号室。
扉の前に『238』という表札がぶら下がっている角部屋が俺の部屋だった。
「うおおっ。なんか師匠の部屋、オレのよりも広くないッスか?」
「んん? そうなのか?」
「はい。やっぱり角部屋だからですかね。きっと師匠は成績優良だから、優遇されているんスよ!」
などとテッドは言っているのだが、やはり住み慣れた元の家と比べると幾分スケールダウンしている感は否めない。
まあ、与えられたものに対して文句を言っても仕方ないし、自分にできることからやっていくか。
「師匠ー。何やってるんスか?」
「んん? 何って……見て分からないのか。|刻印(エンチャント)だよ」
透明の袋の中から制服を取り出した俺は、指先に魔力を集中させて生地の感覚を確かめていた。
「あのー。|刻印(エンチャント)ってなんのことスか?」
「……お前、それでよく入学試験に受かったな」
まあ、テッドの前で黒眼系統の魔術を使うのは初めてのような気がするから、仕方がないのか。
それにしたってお前は、そろそろ自分の得意系統以外の魔術にも目を向けるべきだと思うが。
「確認するが、各々の眼の特性は知っているよな?」
「そりゃもちろんッスよ! 灼眼は炎! 碧眼は水! 翠眼は風! 灰眼は補助! 黒眼が、作る?」
「生産な。主に道具の効果を向上させたり、衣服に魔術を施しておく。なんて使い方ができる。そして、|刻印(エンチャント)は、黒眼系統の魔術の中でも、最も応用が利く重要な魔術だ」
「そうなんスか!」
物体に刻印を施す技術は、総称して『付与魔術』と呼ばれている。
直接的な戦闘能力こそ持たないものの、優秀な付与魔術師は慢性的に供給不足の存在であり、パーティーを支える『裏方』として欠かせない存在だった。
「|刻印(エンチャント)には物体の性質を向上させたり、変化させたりする効果がある。たとえば、剣に刻印すれば切れ味が鋭くなったり、盾に刻印すれば耐久性が上がったりするわけだ」
無論、全ての魔術適正を持った《琥珀眼》の俺は付与魔術師としても相応の腕もある。
200年前の時代には、俺に刻印を施してもらうために50年待ちの予約が作られたりした。
まあ、その辺りのことは俺が転生して200年後の世界に来てからは有耶無耶になってしまったわけだが。
今にして思うと予約者たちには、悪いことをしてしまったな。
「話しについてきてないな」
「え!? いや、真面目に聞いていますよ! 理解ができないだけッス!」
ふう。テッドには少し難しい話だったか。
コイツに理解してもらおうと考えた場合、理屈で説明するよりも実際に見せた方が早いだろう。
「テッド。お前の制服もやってやろうか? 刻印。かけ直してやるよ」
「ええええ! いいんスか!?」
「ああ。今日だけは特別だ」
無論、俺は完全な善意で他人に刻印を施してやるほどお人好しではない。
刻印というものは、精緻なものほど取り消すのに時間がかかるという欠点があるのだ。
昔から付与魔術の世界には『刻印三倍算』という言葉がある。
これは、刻印というものは、施すよりも消す方が、3倍難しく、3倍時間がかかるということを現したものの喩えである。
つまり、テッドには悪いが、俺の制服に刻印を入れる前に練習台が欲しかったのだ。
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