決闘の誘い

 教官の一人の、白衣の女が黒板に最終試験の説明を書き始めた



 ──貴族は古来より、様々な物を掛けて戦ってきた。



 それは時として、女であったり、領地であったり、命であったり、様々である。



 これは魔族との戦争中もそうだった。貴族同士でよく揉めていたのを憶えている。


そんな貴族がもめ事を起こす度に、ことあるごとに、持ち出されているのが『決闘』と呼ばれる風習である。



「最終試験は、決闘を模した実技試験です。この決闘の結果は合否に大きく関わる、とだけ最初に告げておきましょう」



 これから決闘が始まるというのに思ったよりも会場の様子は静かだった。


 なるほど。

どうやらこの最終試験の内容は、毎年あまり変わっていないのだろう。


 受験生たちは試験官が口にした言葉を淡々と受け止めているようであった。



「今から3つ、ルールを説明します」



 そして提示されたのは、分かりやすい3つのルール。



 1つ。勝負は1対1で行うこと。

 2つ。勝敗は教員より施された防御魔術を破壊された方の負けとすること。



「今から我々が受験生の皆さんに防御魔術を施していきます。防御魔術は低威力の魔術なら何発か耐えますが、高威力の魔術を受けると一撃で破壊されることもありますので注意をしてくださいね」



 試験官は説明をしながら自身の体に防御魔術を施していく。


 ふむ。

 まぁ、決闘を模した試験の内容という意味では妥当なところだろうな。


 問題は教官の施す防御魔術が心もとないという点であるが、学生同士の戦いにおいてはこの程度のもので十分なのだろう



「最後に3つめのルールを説明します。対戦相手は前の試験の結果を元に『実力の近しい相手』を選定しています。相手の受験番号は今から張り出す紙に書いておきましたので、各自確認を済ませておいて下さいね」



 どれどれ。俺の対戦相手の受験番号は『86番』か。

 何処かで見たような番号ではあるのだが、具体的に誰なのかまではサッパリと覚えていないな。


 他の受験生たちのことになど全く興味が無さ過ぎてチェックをしていなかった。



「もう一度。隣よろしいかしら? アベルくん」



 対戦相手を探そうと考えていた矢先、見覚えのある女に声をかけられる。


 そうか。

そういうことかよ。


 茜色の髪を持った少女、エリザが胸につけたプレートには『86番』の受験番号が振られていた。



「おい。見ろよ。アレ!」


「噂の劣等眼と赤髪の女が戦うみたいだぞ!」



 なるほど。

 どうやら俺たちの戦いは今回の試験の中でも注目のカードらしい。

 

 試験官は今回の決闘は『実力の近しい相手』を選んだと言っていた。

 おそらく前の試験では俺とエリザが暫定1位、2位の順位で通過したのだろう。



「一緒に踊りましょう。このアタシが貴方の実力を見極めてあげるわ」



 余裕の台詞を口にしたエリザは、俺に向かって手を差し伸べる。


 やれやれ。

 俺はただ、誰に注目されることもなく、目立たず、平穏に学園を卒業したいだけだったのだが。


 つくづく人生っていうやつは、なかなか自分の思い通りには運ばせてくれないものらしい。

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