最終試験
面倒なことになった。
これまでは特に大きな問題もなく、淡々と進行をしていた入学試験であるが、最後の最後に大きな山場が待ち受けていた。
どういうわけか俺は、跳ね返りのジャジャ馬娘、エリザと決闘することになってしまったのである。
「さぁ、武器を抜きなさい! アタシの魔術で骨抜きにしてあげるわ!」
やれやれ。せっかちな女だな。
目の前にいるエリザは武器を手に取り、早くも臨戦態勢に入っているようだった。
「悪いが、武器は使わないぞ。生憎と俺は魔道具を使った戦いがあまり得意ではないのでな」
「ふうん。それって何か特別な拘りがあるのかしら?」
別に拘りがあるわけではないのだけどな。
俺の場合、魔道具を使って魔術を構築するよりも、自分でゼロから魔術を構築する方が早くできてしまうのだ。
俺の戦闘スタイルは『拘り』に代表されるような感情論ではなく、合理性を突き詰めて行った結果なのだが……。
当然そのことを言っても信じてもらうのは難しいだろう。
「理由は言わない。けれども、お前を失望させるような結果にはならないということだけは、保障しておいてやろう」
俺の言葉が気に召したのか、エリザは僅かに口元を緩める。
「古風な戦い方をするのね。でもまぁ、そういうのも嫌いではないわ」
不敵に笑ったエリザは剣を抜く。
シュオンッ!
次の瞬間、ゴムが弾けたように真っ直ぐ突っ込んできた。
なるほど。迅(はや)いな。
この魔術が衰退した世界にも、これだけの人材が残っていたのか。少しだけ驚きである。
だがしかし。
当然、俺にとってはエリザの剣撃などはハエが止まるかのようなスピードである。
俺は欠伸を噛み殺しながらもエリザの背後に回り込むことにした。
「なっ――!?」
訳も分からないままに背後を取られたエリザの表情は驚愕で歪んでいく。
しかし、この程度では彼女のペースは崩れない。
優秀な証だ。戦闘の最中に相手の行動に驚いていちいち動きを止めていたらキリがないからな。
「炎列刃(フレイムエッジ)!」
続く第二陣、振り返ったエリザの|魔道具(レガリア)から魔術が飛んでくる
炎列刃とは火属性の基本魔術である火炎弾に『切れ味強化』の追加構文を施した初級魔術である。
俺にとってはもう何万回作ったか分からない魔術の中でも初歩の初歩だ。
そうだな。
攻撃を避けることは簡単であるが、あまり同じことばかりを繰り返しても芸がない。
「炎列刃(フレイムエッジ)!」
俺はエリザが構築した魔術と比べて、ピッタリ2倍の威力の魔術を発動して、攻撃を返すことにした。
「えっ――!?」
圧倒的なスピードで、カウンターの一撃を発動されたエリザは、咄嗟に絶望の表情を浮かべる。
ガキンッ!
ズガガガガガッ!
空気を燃焼させる音と共に俺の構築した炎列刃が、エリザの魔術を飲み込んでいく。
瞬間、爆発音。
エリザの方はどうにか攻撃を回避できたみたいだが、俺の構築した魔術によって地面がエグれていくのが見えた。
ふむ。少しやり過ぎたかな。
実力の差を見せつけてエリザの心を折ってやることは簡単であるが、あまり早く勝負が決してしまっても面白みがない。
こういった模擬戦闘の場合、相手の実力を100パーセント引き出した上で勝利するのが、美しい勝ち方というものだろう。
「たあああぁぁぁぁ!」
が、どうやら俺はエリザの能力を少し侮っていたらしい。
圧倒的な実力の差を前にしてもエリザは臆さなかった。
煙の中で姿を消して、気配を絶ち、反撃の一撃を与えるチャンスを虎視眈々と狙っていたのである。
『良いこと平民! アタシの視界に入りたいのならば、誰よりも強くなりなさい。アタシは強いやつ以外に興味がないのよ』
その時、俺はふと初めて会った時にエリザが口にしていた台詞を思い出す。
なるほど。
どうやらエリザの中の強者に対する尊敬の気持ちは本物らしい。
本来ならば絶望しても不思議ではない状況下においてもエリザは、心底楽しんでいるように見えた。
やれやれ。
俺もこの娘の持つ熱に少しだけあてられてしまったかな。
僅かではあるが、他人との戦いが面白いと思えたのは、随分と久しぶりなような気がする。
しかし、本気で向かってくる相手に対して、わざと力を抜いて戦いを長期化させるのも悪趣味だろう。
「策は悪くないが、相手が悪かったな」
「なっ――!?」
俺はエリザの攻撃を躱すと、素早く魔術を構築する。
次に選んだ魔術は、俺が実戦において最も長く愛用していた中級魔術である。
「火炎連弾(バーニングブレット)!」
これまでの流れの中でエリザの実力は大体把握した。
おそらく次の攻撃は避けられないだろう。
そういうギリギリの範囲を狙って構築した魔術だからな。
防御魔術込みで死なない程度に威力は調節をしていたが、この攻撃を受ければ戦闘の続行は困難だろう。
これで終わり。さようならだ。
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