魔術改変
俺は目を開けたまま夢を見ているというのだろうか。
それからというもの、子供のお遊戯会のような試験は続いて行った。
「火炎弾(ファイアーボール)!」
「風列刃(ウィンドエッジ)!」
「雹棘砲(アイスニードル)!」
会場に集まった受験生たちは、それぞれ自分の眼の色に合った魔道具を使って、魔術を構築している。
いや。流石にこのレベルの魔術を魔術と呼んでしまうのは抵抗があるな。
まさか魔道具(レガリア)というサポートアイテムを使用しても、ロクに魔術を扱えない人間がいるとは思ってもみなかった。
今にして考えてみると、この世界ではボンボン貴族(兄)のバースですら、優秀な魔術師だったのかもしれない。
「えー。それでは最後になりましたが、受験番号27番、アベル君。試験の方は受けますか?」
試験官が妙に優しい声で尋ねて来た。
やれやれ。
おそらくこの試験官も会場にいる受験生と同様に『琥珀眼の魔術師はロクに魔術が使えない』という間違った認識を抱いているのだろう。
将来の魔術師たちの育成を担う教育者がこの惨状では、先が思いやられるな。
「やらせていただきますよ」
短く返事をすると、教官が指示した場所に移動する。
「それでは始めて下さい」
試験官の合図によって俺の試験が始まった。
さて。どうしたものか。
単に与えられた構文通りに魔術を構築しても流石に芸がない。
ここは何か細やかなアレンジを施して、さりげなく実力を示しておくことにしようかな。
「なぁ。おい。見ろよ。あの琥珀眼の平民」
「ハハハ。火炎玉の構築にこんなに時間がかかるなんて。流石は劣等眼だな」
既に魔術に集中しているので外野の野次が気になることもない。
俺は素早く魔術構文を改変して、欠陥(バグ)が出ないように全体の帳尻を合わせていく。
《弾速レベル──最速》
《威力レベル──上昇値(大)》
《追加術式──散連弾》
ああ。そうそう。
最後に1つだけ大事なものを忘れていた。
《|安全装置(リミッター)解除》
これでよしっと。
後は狙いを的に絞って、魔術を発動すれば終わりである。
取り立てて何も語ることのない平凡な魔術ではあるが、この会場に集まった魔術師たちの実力を考えておくとレベルを下げておくのが正解だろう。
「|火炎弾(ファイアーボール)──|雨型分裂(スプレッドレイン)!」
次の瞬間、空気が震える。
俺が構築したのは、直径1メートルくらいのサイズの火炎弾である。
ただ、同じ魔術を発動しても面白くないので、この魔術には空中で分裂するよう、魔術構文を改変しておいた。
ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
ドガガガガアアアアアアアアアアアアァァァァァァン!
空中に向かって飛んで行った火炎弾は分裂をして、雨のように的に向かって降り注いでいく。
なんだこれ。
よく見ると絶対に壊れないと言われていた的が壊れてしまっているな。
おそらく学生向けの試験とタカをくくって、粗悪な材質の暗黒物質を使っていたのだろう。
そうでもなければ今程度の魔術で、暗黒物質が溶解するはずがない。
「あ、あ。あ、あ……」
んん? これは一体どういうことだろうか。
理由は全く不明なのだが、俺の隣にいた女性教官は、腰を抜かしてまま魚のように口をパクパクと動かしていた。
「な、なんだよ……。あれ……」
「し、信じられねえ……。辺り一面、焼野原じゃねぇか……」
他の受験生たちも口を揃えて、俺の方を見て何事か口走っている。
もしかして今の魔術がそんなに珍しかったのだろうか?
いや、流石にそれはないか。
応用魔術の中では、《散連弾》なんてものは魔術の初歩の初歩だからな。
いくら魔術師たちのレベルが低下したとは言っても、この程度の魔術であれば使える人間は何人でもいるだろう。
「な、なんで、劣等眼がこんな魔術を使えるんだよぉぉぉ!?」
受験生の1人が情けなく腰を砕きながらも声高に叫んだ。
そうか。合点がいった。
おそらくこの周囲の過剰なリアクションは、琥珀眼の魔術師が普通に魔術を構築できたことに対する驚きなのだろな。
琥珀眼の魔術師に対する間違った認識を是正できたみたいで何よりである。
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