テッドの実力

「さて。それでは準備の出来た人から前に出て下さい」


「はいっ! はいはいはいはーいっ!」



 試験官の言葉に反応して、最初に手を上げたのはテッドだった。


 テッドのやつ、張り切っているな。

 おそらくテッドは筆記試験で失敗した分、今回の挑戦で挽回しようと考えているのだろう。



「よろしい。ではまず28番の方から始めますね」


「うおっしゃー! オレが一番だー!」



 大丈夫かよ。あいつ。

 暫く俺が面倒を見てやったとは言っても、アイツの魔術師としてのレベルは、『半人前』も良いところだ。


 リリスの話によると、このアースリア魔術学園は全国から選りすぐりエリートが集まる学校らしい。



 このままだとアイツ、大勢の受験生前で恥をかくことになるんじゃないか?



 指定された位置に立つテッドは、手甲型の魔道具を構える。



「では、はじめ」


「火炎弾(ファイアーボール)!」

 


 テッドは大きく拳を突き出して炎の弾丸を放つ。



 うわ~。こ、これは酷い。



 テッドの放った火炎弾は、誰がどう見ても低質だと分かるほど凄惨なものであった。


 まぁ、これも当然の結果か。

 もともとレベルの低いテッドが、更に不慣れな魔道具を使って魔術を発動しているのだからな。


 出てくる魔術が低質なものになるのは、仕方がないことなのかもしれない。



 ガキンッ!



 テッドの構築した魔術が的の中に吸い込まれるようにして消えた。


 なるほど。

 あの的には魔術を吸収する鉱石、暗黒物質(ダークマター)が使われているようだな。


 たしかに暗黒物質で作られたターゲットであれば、多少強力な魔術を発動しても壊れることはなさそうである。


 前の世界では安定した供給が難しいという欠点を抱えていた暗黒物質であるが、現代ではその辺の欠点を克服したのだろう。



「「「えっ……!?」」」



 会場が一瞬どよめいた。


 そらみたことか。言わんこっちゃない。

 テッドの魔術があまりにも稚拙だったので、呆れてしまったのだろう。



「素晴らしい! キミほどの逸材がどうして一般受験を!?」



 んん? この教官……今なんて?

 

 流石に今の言葉は聞き間違いだよな。

 あの魔術の何処に才能を感じる要素があったというのだろうか。



「信じられねえ。ランゴバルト家って言うと、片田舎に住んでいる辺境貴族だろ?」


「うわぁ……。最悪だ……。あんな凄い魔術を見た後だとやり辛いわ……」



 他の受験生たちのリアクションも冗談で言っているようには思えない。


 ま、まさか本当なのか?

 この世界では本当に今の魔術が、『素晴らしい』と褒め称えられるレベルなのか?



「なんという怪物。どうやら我々は100年に1人の天才魔術師の誕生の瞬間に立ち会えたようだね」


「…………」



 タバコの煙を吐き出しながらも、責任者と思しきベテランの試験官は言った。



 テッドが天才!?

 100年に1人の天才だとぉぉぉ!?



 その時、俺は遅まきながらも、自分がとんでもなくレベルの低い空間にいることを再認識するのであった。

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