反証魔術
それから。
俺が《転生魔術》による眠りから目覚めてから2年の月日が流れた。
この2年間、俺は様々な分野の魔法技術を見て回っていた。
が、やはりというかなんというか、この領地で見られる範囲で心から凄いと思えるものはさほどなかった。
もちろん、魔術の質も壊滅的に悪くなっていた。
最初はこの世界の魔術が衰退したのは『魔道具』に原因がある、と思っていたのだが、どうにもそれだけが理由とは思えなくなってきた。
この世界の魔術師たちのレベルの低下は、ハッキリと言って『異常』とも呼べるレベルである。
リリスに聞けばその辺りのことを教えてくれるのかもしれないが、やはりこの世界のことは可能な限り、自分で見聞きして、発見していきたい。
この200年の間にどんな出来事が起きて、どうして魔術が衰退して行ったのか。
俺にとっての最近の興味は、もっぱらその辺りにあった。
「アベル様。お茶が入りました」
「ん。ありがとう」
魔術の衰退は悲しいが、この世界には代わりに幾つか画期的なアイテムが普及していた。
特にこのリリスが持っている加熱ポットというアイテムは便利である。
魔術の特性として瞬発的に力を発揮するのは得意なのだが、断続的にエネルギーを発することを苦手としているのだ。
「どうでしょうか。このハーブティーは自家製なのですよ」
「ん。良いんじゃないか。悪くない味だ」
もしかしたら優秀な才能を持った人間たちは、こぞって魔道具の開発分野に集まっているのかもしれないな。
この平和な時代に必要とされているのは、厳しい修練が必要な『魔術』ではなく、誰もが手軽に使用できる『魔道具』ということなのだろう。
200年前から転生を遂げた俺としては、少しだけ複雑な心境である。
「師匠ー! 出来ました! ついに例の魔術を憶えたッスよー!」
どっがーんっ、と快音を響かせ扉を開け広げて入って来たのは、俺より少し背が低いべっこう飴が焦げたような金髪の少年、テッドである。
テッドはこの2年間、俺のことを師匠と呼び、魔術の教えを乞うようになっていた。
出会った当初こそ荒々しかった言葉遣いも、今となってはすっかりと改善していた。
「構わん。ここで試してみろ」
「え。でも……?」
「この俺がお前ごときの魔術を打ち消せないと思うか? 遠慮なく打ってこい」
相手の構築した魔術を分析して、一瞬で相手の魔術を無力化する技術を《反証魔術》という。
実のところ《反証魔術》は相当な実力差がないと使えないのだが、テッド相手なら問題ないだろう。
「んじゃ。行きますよー」
両目を閉じたテッドは、頭の中で魔術構文を描いていく。
「火炎連弾(バーニングブレット)!」
次の瞬間、空気が震える。
テッドの右手からは直径10センチほどの炎の弾丸が放たれることになった。
リリスの淹れたハーブティーを飲みながらも、俺はテッドの魔術を品評する。
なるほど。
まぁ、それなりだな。
まったく全然まるで基本のなっていない低質な魔術ではあるが、この時代の魔術師にしては上出来なんじゃないか。
何より魔道具のような玩具に頼っていないのが好印象だ。
あの道具を使うと思考が停止してしまい、魔術に対する理解が疎かになってしまうのがいかんな。
「えっ!? えええええええええ!? 師匠! どうしてオレの魔術が消えているんスかー!?」
突如として魔術が無効化されたことを受けて、テッドは戸惑いの声を漏らしていた。
やれやれ。
この時代の魔術師たちは《反証魔術》も知らないのか。
使いようによっては意外と便利な《反証魔術》であるが、やはり使用には相当な実力差が必要になってくるのがネックとなる。
相手の魔術の構築を読み取り、その魔術と全く逆の構文を作り出す。
その一連の流れを遅くとも相手の魔術の発動直後までに実行する必要があるからな。
所詮、こんなものは欠陥品だ。
テッドのような愚鈍な魔術師ならば効果てきめんであるが、実力が拮抗している相手には何の役にも立たないのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます