2. ベン②

「凄いやつだったな、あのガキ」


「今は本人たちにコッテリ絞られてるらしいよ。手が出なきゃいいけど...」


俺たちは旅館の外にある広場、こじんまりとした雰囲気のある場所の長椅子に座っていた。宿場町というのもあり、人通りはかなりある。



「ゆかた」なんて言う珍しい服もあったが、敢えて着ないことにした。似合うか分からないという問題もあったが、その他にももう一つ理由がある。



「お前は『勇気』の力について何か知ってるか?」


「急だね。もしかしてとなにか関係がある?」


そう言って***は拳を握り、そして開く、それを二回。これは「敵アリ」の合図。俺たちから斜め後ろの場所、木の影にソイツはいた。


人数は一人、この町に来た時から感じてた視線の正体だ。恐らく懸賞金に目が眩んだ賞金稼ぎの類だろう。馬鹿だな、通報しなければ金は入ってこないのに、俺たちを殺せば金を手に入れられると勘違いしてやがるな。


俺は頷き、話を続ける。

「この力には習熟の段階がある。それ自体は他の力と変わらない、だがその内容が他と違い少し特殊だ」



一段階目。

「ヴェイルはこの段階だった。この『勇気』の力を得ると、物怖じしそうな場面でも咄嗟に身を乗り出すことが出来る。行動全てがになるんだ」


俺は立ち上がり、賞金稼ぎの元へと歩く。

「当然、それだけじゃ役に立たない力だ。だけどな、本質はそこじゃなかった」


「これから何があっても手を出すなよ」

俺の行動に驚いたソイツは、懐に隠していた刃物を取りだし襲い掛かる。どうやら転移者ではないらしい、だったら...。



「おい! お前あそこにいる子を狙ってんだろ! 許さねぇ!」


全くの嘘。

俺はそんなありもしない事を大声で言ってのけ、そして賞金稼ぎの男へと向かっていった。






「なに? 今子供たちを狙ってるって...」


「おい! アイツ刃物持ってるぞ! 近くの憲兵呼んでこい!」


今までの戦いや『遡及』での経験を通じて、対刃物の戦い方は充分に理解した。だから今は手に取るように分かる、刃物を手にした人間がどんな行動をとるのか。


「クソがっ!」


掠りもしないことに腹を立てたのか、力任せに刃物を振り回す。いい兆候だ、怒り狂った奴ほど軌道が読みやすい。あとは伸び切った腕を掴んで関節を固めてやれば...。



「おお!」


簡単にいなす事が出来る。

男の肩を強引に外し、痛みに悶える男を放置して立ち上がる。


「さっきの続きだ。二段階目、これは『勇気』ある行動に...」


その続きを言おうとした瞬間、俺の後ろから悲鳴やどよめきが聞こえてくる。見ると、もう一人の賞金稼ぎが近くにいた子供へと刃物を突きつけていた。


「コイツを殺されたく無かったら言うことを聞け!」


「やっべ」

しまった、俺も馬鹿だった。あまりにも仲間に意識を向けてなかったから一人だと勘違いしていた。



「...まあいい」


***の方を見ると、呆れた顔をして椅子から立ち、こちらへ加勢しようとしている。そんなアイツを制止するように、俺は近寄る***を手で遮った。



すると、周りで群れを為していた野次馬の中から数人の男女が飛び出し、子供の首を掻き切ろうとしていた賞金稼ぎを押さえ付ける。俺に気を取られていたソイツは事態に気付くことなく、気づいた時には大勢の人に拘束されていた。



二段階目。

「俺の『勇気』ある行動に感化されたが、その行動を賞賛するように動く」


例えば、野次馬でしかなかった民衆が『勇気』ある老若男女へと変わったり。



例えば、世界がその『勇気』に対し褒美を与えたり。


「今の俺は二段階目までしか行けてない。コレがこの力の真骨頂なのか、まだ力を秘めてるのか...全く検討がつかないけどな」



近くから憲兵が走ってくる音が聞こえる。


「おいアンタすげぇな! さっきの子供たちを守ろうとしてくれたんだろ?」


そう興奮した顔で言う野次馬たちを軽く躱し、俺たちは足早にその場所を後にした。






「二人目の賞金稼ぎが出てきた時はビックリしたよ。あんなに啖呵切っといて分かってなかったんだって」


「...結果が良かったんだから気にすんな」



「それより...おんせんってまだ空いてると思うか?」


旅館の入口でそう言い合う。

この際だ、似合わないと思ってたゆかたも着てみるとするか。

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