日記

この世界に降り立った瞬間から、俺は今いる場所を知ろうと動き出していた。



これが巷でよく見る異世界転生モノかと、降り立ったばかりの俺は胸を躍らせていたのを覚えてる。今なら分かるが、この世界はそんな生易しいものじゃなかった。


攻略が難しいだとか、自分がトラブルの渦中にいて何度も死にかけるとかじゃない、この世界では



おあつらえ向きに力を授かったが、むしろこの力のせいで命を狙われてるまである。この世界ほど、自分が「普通」でありたかったと願う場所はない。




この世界で分かったことをこのノートに書き記そうと思う。


未来の俺か、それとも別の誰かなのか、とにかく役に立てばなんでもいい。この世界で長く生きるためには、とにかく情報が必要だ。



こういう状況で大切なのは、を見定めること。


敵とは何か、


指名手配されてる『契約』の老人?

勇者によって駆逐されかけている魔王?

この世界に留まることを許されなかった、絶対的な力を持つ人間?




【世界を象る九つの存在】


文献や言い伝えで確認できたのは四体、それぞれ何らかの概念を象ってる。


よくありがちな七つの大罪を象るモンスターかと思ったが、案外そういう訳でもないらしい。冠する概念は規則性がなくバラバラだ。



くち


口とは無くてはならないものだ。


人間が生きていくために必要な部位、「欲望の捌け口」などの精神的安定を図る為に必要な概念、火口などの自然現象を円滑にする為の構造、世界は口無くして成り立たない。


一見手の渦に見えるソレも、立派な口だ。

召喚するというよりは『契約』の構造自体を担ってる。魂を吸い込んだり、対価として差し出したモノを喰らうと言った感じだ。



魂を喰らう時、その魂の元へと天から手の糸が垂れるのだと言う。「蜘蛛の糸」みたいだが、こっちは少し悪趣味だな。芸術センスはあるかもしれないが。




『悪魔』


人間の生み出す美には限界がある。

優しさを受け取り、喜びや幸福感を感じるのにも限界がある。無人島を買ってもらったりだとか、世界中の女が俺の事を好きになったとして、その時嬉しさの余り死ぬなんて事はないだろう。



でも、悪意に限界はない。

人はどこまでも醜くなれる、悪徳を積み重ねることが出来る。その様子は『悪魔』の姿を見れば一発だ、絵で見ただけなのに吐き気がする。


人型のソイツだが、胴には目を塞がれた色の悪い人間が抱き合ってたり、手の部分は花が開花したように連なる無数の手から出来てたりと様々だ。実物を見たら正気じゃいられないな。



指を折ると、見えない力が働き対象を殺す。念力みたいな感じだ、威力が段違いだが。そして、死ぬことはほぼ無いらしい。コイツが死ぬ時は、この世から死体が無くなった時だ。




『覇王』


この世界は武力で出来ている。

縄張りを守るため、対立した物事を解決するため、何より生きるために世界は武力を振るう。世界の発展には、いつも武力がついて歩いていた。


これ程必要不可欠でシンプルなものが他にあるんだろうか、是非とも聞きたいところだ。



この存在の特徴は、冠するモノと同じく至ってシンプルだ。


、そうとしか言い様がない。


薙刀を持ったり素手だったり、伝承によっては記述が様々だが、たったそれだけだ。力も持ってないし、死なない訳でもない。


ただ、圧倒的なまでの「武力」を持ってるだけ。いくら転移者だとしても、純粋な武力の塊には勝てないだろ。




『天使』







もし生まれ変われるんなら、その時こそ異世界でスローライフを満喫してみたいね。


幸せ者だよ、同じ異世界なのに俺はこんな目にあってんだから。何回創作物であるアイツらを羨ましく思ったか...そっちは架空の世界から出て来れないのにな。



もし、自分の人生が誰かに鑑賞されてたらと考えたことがある。今こうやって日記を書いてるのも誰かに見られてて、鼻で笑われたりしてるんじゃないかとか妄想をしてみる。


所詮妄想だ、だけど...。




もし本当にそうだったとしたら、俺はきっとやるせない気持ちになると思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る