11. 夜空
あれから二週間とちょっとか...。
長かったようで短かった。いつもは退屈に思える日々も、あの子がいてくれるおかげで楽しいものになる。
「ソフィを拾った時さ、『お母さんだよ!』とか言ってたでしょ」
「なに? 今更」
「アレってよくよく考えたらさ、年齢的にお母さんってよりはお姉ちゃんじゃない?」
私と彼はそんなくだらない事を話し、そして真上に広がる雄大な夜空を見上げる。なんて綺麗な夜空なんだろう、ソフィにも見せればよかった。
「うっさい、私たちも言ったあとで気づいたから言わないで」
夜空を流星が駆けていく、それもたくさん。
「ていうかさ...」
「アレ、ホントに止められるの?」
私が指を指す先には、星がある。
もう半分以上が砕け今もなお崩壊の一途を辿るソレは、この世界の終わりに相応しい光景だった。
「一筋縄では行かないけどね」
「ノラ、貯蓄は?」
「ん...ざっと30」
今私たちがいる場所は、国からバルティアへ行く途中にある小規模の森林。大体の情報が出揃い足取りも掴めたからここに居るのに、彼はずっと木の上で寝そべってるだけだった。そして今も何を考えてるのか分からない表情でずっと流星を見つめている。
「お国から貰ったこの30の命は英雄として祀られる、帰ったら立派な墓を作ろう」
前々から『創造』の転移者がバルティアにいるってのは分かってたけど、ここまでの力だったなんて...。しかも今交戦してるのは『契約』の少年らしい、なんて間の悪い。
「さ、始めよう」
『30体消費』
そうして彼が指を鳴らすと...全て消えていた。
一国を覆うような大きさの星も、各地に飛んで行った様々な大きさの欠片も、全て一瞬で消えた。
「これって...」
多分流星だけじゃない。
一瞬だけ、力も同様に消えた。
範囲は広すぎて分からなかった。流星を全て消したってことは...だめだ、規模が可笑しすぎて考えられない。
「さ、終わった。帰ろうか」
「帰る? 『契約』を殺すんじゃないの?」
「今なら確実に殺せる、『創造』と戦って無傷でいられる訳が無い。殺るなら今」
彼は何を言ってるの?
というか、『契約』の持ち主がわかった時から彼は何かおかしい。復讐を成したいとは言ってるけど積極的に動こうとしないし、変に関わるのを避けてる節がある。
「多分傷を負ってても殺せないよ、『創造』の力を得たんなら尚更だ」
まるで少年が勝つ未来が見えているように、彼はそう話す。ノラは静かに私たちの話を聞いていた。
「ねぇ、なんで『契約』の力が恐れられてると思う?」
「なんでって...応用の幅が広すぎるのと、九つの存在を呼べるからでしょ?」
七割アタリ。
「その二つの他にもう一個ある。現人神を呼べるからだ」
たくさんの神話に登場こそすれ、全く情報がない謎に包まれた存在。言葉通りに捉えるんだったら、人から神になったって事だけど...。
「あの少年は自分の住む町を生贄に捧げてる。要は宣言一つで世界中の人を生贄にできるってこと」
「それをするかしないかは完全に個人の理性で決まってる。あの魔女でさえもしてないんだ、本来ならそういった事は起こらない。というか、する利点がない」
...あまりにも理不尽な力だ。
確かに、この力は世に出しちゃいけない。一生日の光を浴びることなく闇に葬るべきだ。
「でも、あの少年はする可能性がある」
「たぶん俺を殺すためだったら何でもする。育てて貰った親を殺し、幼馴染や友達さえも手に掛けた。マトモじゃない」
「代償がどれほどなのかは分からないけど、俺を殺すためにアレを呼ぶことだって躊躇わないだろうね」
明らかにこの力だけ異質だ。
都合よく用意されたみたい、この世界とは違う何かを感じる。
「何か策はあるんでしょ?」
今まで静観を保っていたノラが口を開く。
どんどん強大になっていく相手を見てもなお、彼女は彼が勝つことを疑ってないみたいだった。
「勿論あるよ。だから待ってる」
少し風が吹き、森の木々が音を立てて揺れ始める。
「来る時、エデルに新たな転移者が産み落とされる」
「その力を手に入れさえすれば、容易に殺すことも出来るだろうね」
風が止み、辺りに静寂が訪れる。
「未来が見えたの? にしては時期が曖昧な気がするけど」
「いや? 見えてない、分かったんだ」
これから楽しくなる。
静かなのは、今だけだ。
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