15. 逢着

僕たちの考える「善と悪」とは何に基づいて決まってるんだろう。



生まれた時から身近に殺しという文化が根付いていれば、僕だってそれが善い行いだと思うだろう。つまりは僕たちの知る文化とこの村の文化は絶対に相容れない、だけどどちらが正しいかなんて絶対に決められない訳だ。


「お前らにとっちゃ気持ち悪い村かもしれないが、旅人に危害を加えることは絶対にない。そこだけは安心してくれ」


「それよりもだ、明日も『創造』を探しに国へ向かうんだろ? 今はそっちに注力した方がいい」



確かに、今は存在するかさえも分からない転移者のことを考えた方がいい。


「ベン、さっき言ってた憲兵ってのはどういうこと?」


「あぁ、その事か。イリスが知識を更新する間、この国は急激に変わっちまったんだ」



ベンは水を口に含み、そして話し出す。


「廃国と呼ばれるこの国は、文字通り国として機能しなくなる寸前だった。統治機関も消え、経済も回せないほどに落ちぶれてたんだ」



「だが、それはが来たことで終わりを迎える。世界中で忌み嫌われる犯罪組織、その根城としてこの国は利用された」


「そのおかげで、この国には様々な悪意が渦巻いてる。だが皮肉にもこの国は新たに統治され、ある種国として成り立ってるって訳だ」



やっと分かった。

この国では全ての人が犯罪に加担している。


さらにタチが悪いのは、彼らにとってそれしか生きる術がないということ。この国で生きていくには、得体の知れない薬を作って売り捌くしかないということ。


「なるほど、よく分かったよ」


「それで、誰が君に『遡及』の力を与えたんだい?」



転移者でもない人間が力を持つことは不可能に近い。僕の『契約』やライザの『武器』、イリスから前に聞いた『贈与』の力が先の事を可能にできるけど...情報が少なすぎる。




「...ソイツは、自分のことをだと名乗っていた。力を与えられた時、脳に直接語りかけるように声が届いたんだ」


「触れられた訳じゃない、魔具を持ってる訳でもない、勿論契約を交わした訳でもない。ある日起きたら、この力が使えるようになってた」


神か...自分に自信がある奴しか使わない言葉だ。


「もしその組織に代表格がいるんだったら、多分間違いなくソイツだね」


『創造』の力が予想通りなら、確かに神に近しい存在なのかもしれない。だけど、そうだとすると...



は、力さえも生み出せるのか?



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



朝方、僕たちは村を出発する。

農作業を行う村人の傍に、同じく農作業をしている神父を見かけた。昨日の事がありながらも、神父と村人の間は笑顔で溢れていた。




昨日の事であの人を見る目が変わったかもしれないが、俺たちはそんなこと思ったことも無い。


「神の声を代弁するという立ち位置にも関わらず、ああやって俺たちに寄り添ってくれる。どこまでも対等であろうと努めてるんだ」


「俺たちと共に泣き、共に笑い、汗を流している。本来そうする必要は無いのに」




「だから俺は、そんなあの人を尊敬してる」





バルティアへと到着すると、僕たちは異変に気がついた。


「はぁ...また尾行されてる」


「だいぶ神とやらに警戒されてるね。まあ旅人が全く来ないこの国では仕方ない事か」


そうして僕たちは通り道を曲がり、路地裏へと入っていく。



そうして後を追おうとしている男の肩を、そっと優しく叩いた。


「僕たちをお探しですか?」


「!?」


不意に背後を僕たちに取られ、男は咄嗟に僕を殴りにかかる。


「リズ」


男は『視線』を浴び、身動きひとつ取れなくなる。僕が抑えようとすれば必ず傷つけてしまう、こういう時リズの力はとても便利だ。



男を取り押さえた後、僕は男が見慣れない道具を手に持っていることに気づく。


それは、以前ホロが持っていた『連絡』の道具と似た形をしていた。


「これは...多分ライザから買ったものかな?」


その道具を耳に近づけてみると、男が何か喋っている音が聞こえてくる。


「...おーい、どうした?」


「死んだなら死んだってちゃんと言ってくれよ...ん?」


「もしかして今聞かれてるか? 聞いてたら何か返事してくれ」


なぜ聞かれているのが分かったのかはさて置き、不都合もないので返事をすることにした。



「あなたが自称神様?」


「なんだ、やっぱり聞いてんじゃねぇか。じゃあちょっと待てよ〜」


男は何回か咳払いをした後、声色を変えて話しだした。



「親愛なるバルティア国民よ、神の勅令である」



「現在我が国へと足を踏み入れている不届き者、『契約』の少年及びその関係者を殺せ」


「繰り返す、これは神の勅令である。この勅令を遂行した英雄には神の加護をくれてやろう、必ず殺せ」



なんだ...なぜ

『連絡』の道具とは違う、国中に男の声が響いている。こんな現象は今まで見た事がない、



「あー、疲れた」


再び『連絡』の道具から話声が聞こえる。


「そう言えば、お前の名前なんだっけ?」




あー、思い出した。



「確か...******だっけか?」

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