14. 文化
「よろしく、ベン。君とは仲良く出来そうだ」
ベンと僕はともに握手を交し、そして彼の途方もない戦いは幕を閉じた。
「...気持ち悪いくらい意気投合してるんだけど...。もしかして生き別れた恋人?」
リズは事情が全く呑み込めず、突飛なことを考える。確かに、いきなり僕らの前に出てきて「疲れた」なんて言われたら、僕だってそう思うだろう。
「というか、『契約』で縛りつけなくてもいいの? コイツが裏切らない保証は?」
「その意見はご尤もだけど、彼にはする必要がないと思う。不意打ちが僕たちには効かないって散々学んだだろうからね」
まぁ、それに
「君は僕にとても似てるよ。自分に抗うことが出来ない...優柔不断さがとても」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「たぶん、君の持ってる力は...」
「よせ、あとでイリスに聞けばいい話だ。それより今は大人しく村に帰った方がいい、憲兵に見つかると厄介だ」
イリスは聞き慣れない言葉に強く興味を示す。
「つい三分前くらいに自警団隊はいないって言ったんだけど...おかしいな」
「ヤバい、凄く知りたい。ねぇ、ちょっとだけ触らせてくれない? お礼は勿論するから、ほらほら手を握らしてくれよ。こんな美女が上目遣いでオネダリしてるんだよ? 男として生まれたんならこんなご褒美二つ返事で快諾するはずだよね? ほらほら...」
「うるさい、お前の顔は見飽きた」
...ぅえぇ...? 私の扱い酷くない?
村に着き、ベンの家へと案内される。
その間に神父や村人たちと遭遇したものの、煙たがられるどころか逆に歓迎されてしまった。これも神の巡り合わせだと、僕らを見た人たちは口々にそう言っていた。
「あんたたちが恋人なんかじゃないってことがよく分かった。それよりも意味不明な関係だってこともね」
リズには不本意な解釈をされているが、もう訂正する気も起きない。
「それより、私一度も彼に触れてないんだけど。知識欲を高めるだけ高めて放置ってことは...ないよね?」
何故か怒り心頭なイリスに向けて、ベンは自分の手を差し出した。
「あの場所に長居したくなかっただけだ、別に知られたくない訳じゃない」
「お、結構素直じゃな...い...か」
差し出された手に触れると、イリスは今までの表情とは全く違った、真剣な顔つきになる。
「これは...すごいな...」
「どうしたの?」
イリスがこんな顔をするのは初めてな気がする。だから余計に、僕は彼女の知ったモノが気になってしまった。
「ごめん、これは君たちにも教えられない」
「過程を飛ばして真実だけを語るような愚か者になりたくないんだ、だから言えない。ごめんよ」
「いや、いいさ。僕たちがその真実に辿り着けばいい話だからね」
未だに『創造』の転移者が存在するかどうかも分からない。それを調べていくうちに自ずと分かる事だろう、僕はそう思った。
「コイツの力は分かったけど、なんで遡れるのが1時間8分57秒なんて微妙な時間なの? 1日の方はなんとなく理解できるのに」
「それはね、リズ。1時間8分57秒ってのはこの世界が...」
イリスが言葉を続けようとした時、家の外から僕たちを呼ぶ声が聞こえてくる。
「最近満足に説明できてない気がする...」
そうして外へ出てみると、村人は驚いたような表情で話し出した。
「ベン、忘れちまったか? 今日は裁定の日だぞ」
空が暗くなってきた頃、
村の広場へ向かうと、そこには白が目立つ晩餐机が置かれていた。そしてそこには十人の村人と神父が座っており、周りの松明がその光景をより際立たせている。
僕たちは聴衆の中から遠巻きにその光景を眺める。すると神父が口を開き、裁定の日が始まった。
「貴方たち十人は善く生き、今日も天命を全うしています」
「ですが裁定の結果、貴方たちは我らの贄となることが決まりました」
「ほんの少し娯楽に惚ける、家族を傷つけるような行いをする、他人の容姿を小馬鹿にする。たったそれだけの行いです、ですが神の教えに背く行いでもあります」
神父の柔らかな声色とは裏腹に、晩餐机に座る十人は各々が目に涙をうかべ鼻を啜っている。
「醜い行いは蓄積されていき、やがて貴方たちは人の道を外れてしまうでしょう」
「その前に、貴方たちが人でいる前に、我々の糧となることでその悪を消し去りましょう。貴方たちの肉を咀嚼する度に、貴方たちの罪は消えていくはずです」
...理解すると気分が悪くなる。
「さぁ、別れの時間です。家族や友人に最大限の感謝を送り、そして共に涙を流しましょう」
「貴方たちとの別れは悲しい。それは神も我々も変わりありません」
ベンの家へと戻る。
リズは気分が悪くなったのか、すぐにベッドへと向かってしまった。
「この村は神によって監視されてる。村人は善い人間であることを心がけ、
「裁定の日では軽蔑や罵倒、怠惰や暴力なんかをやらかしたヤツらが選ばれる。要はこの村で最も悪いヤツらの処刑場があの場所ってことだ」
村で出る料理に人肉が含まれていた理由が分かった。
食料にしてるんだ、あの十人を。
「この村の人たちは何も思わないの?」
「俺は最近この村のおかしさに気づいてきたけどな、それ以外は微塵も疑っちゃいないさ」
だって
「お前らの常識はこの村では異常な事だ。見方を変えればお前たちの方が異端なヤツなんだぜ?」
だから、常識なんてのは所詮そんなモンなんだよ。
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