*日と*時間*分**秒より
クソ、また失敗した。
俺は何度失敗した? 何回捕らえられた?
人生は一方に進んでいくはずなのに、俺は未だこの場面から進むことすら出来なかった。
こんなの正気ではいられない。
来る日も来る日も同じ光景ばかり見せられ、策を練っては打破される。その度に挫折を味わい、俺の精神は擦り減っていった。
居住区の皆に計画の説明をするのも手馴れた。最適化された常套句を並べ、その度に感嘆の声を上げる仲間たちの表情をどこか冷めた目で見る。
「その反応は何回も見た、次からは省略してくれ」とか「次はもっと上手くやってくれ」などと思いこそするが、それを口にしてしまえば人として死ぬ。
俺にとっては居住区の皆だけが、擦り減った精神に踏ん張りを効かす存在なのだと実感した。
何回も何回も入念に準備をし、何回も何回も失敗してきた。
門番にヤツらを殺すよう仕向けたり、協力的な素振りを見せて背後から殺そうとしたり、差し出した飲み物に毒を盛ったり、ヤツの歩幅や歩き方の癖を覚えて地面に石を移動したり、他の転移者を使ってヤツを殺そうとしたり、建物の遥か上層からものを落としたり、薬物中毒者を使ってヤツを殺そうとしたり、ヤツの行動を一つ一つ覚えようとしたり、居住区の仲間を使ってヤツを殺そうとしたり、神に祈りを捧げタリ、ヤツの攻撃を一つ一つ覚えようとしタリ、目の前で死んでミタリ、コロサレテミタリ、空を仰いでみたり、俺が.....して......たり、タリしてみたり、たりタリたりしてタみたり、たりみたいタリ楽になりタイしてたりミタイ助ケテたみたりタイたりタリしてみたり...。
...なんで俺はヤツを殺そうとしてるんだ?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
家の中で入念に最後の確認を行った。
ヤツを殺すために必要な道具が揃っていることを確認し、翌朝を迎える。
そして翌朝。
ヤツが民家から出るのを見届けたあと、俺も村を出てバルティアへと向かった。
まず確実に潰さないといけないのは『視線』の力を持ったリズという少女だ。
人から向けられた視線を感じ取ることの出来る力、暗殺や不意打ちはこの力によって封殺されてると言っても過言ではない。この力をどう攻略するかが鍵となる。
「...驚くことに自警団隊が存在しないんだ。世界はコレを国と認めてる、不思議で仕方ない」
イリス...この女も厄介極まりない存在だ。
一度触れられたら最後、自分の生い立ちや今何をしようとしていたのかまで全て、彼女の知識欲の糧となってしまう。俺が誰に根回ししていたのか、父の手記には何が書かれていたのかが全て知られてしまう。それだけは避けねば。
そうして俺は隠れていた場所から身体を出し、ヤツらの前へと姿を現す。
「どうかしましたか?」
ヤツは温和な声色でそう尋ねる。警戒の色を強めながらも物腰柔らかに、この対応も見慣れていた。
そうして俺は懐に隠しておいた刃物をヤツに突きつけ...それを手放した。
「...どういうつもりかな?」
「もう疲れた、だから楽にしてくれ」
どうしても殺したかった。
父から呪いを受け継ぎ、抗えないほどの使命感が俺を今まで動かしてきた。誰かに与えられた力が、俺に歯止めを効かせ無くしたのかもしれない。
何故ここまでヤツを殺そうとしているのかも分からないのに、今まで俺は何をしていたんだろう。
殺意が身体を支配している時、俺は何度も仲間が死んでいくのを目にした。
こんな国に生まれたがために貧困を強いられてきた人たち、だが笑顔を絶やしたことは一度もない。苦悩しているからこそ常に笑顔でいる彼らに、俺は心惹かれていた。
だから、そんな彼らが目の前で死んでいくことに、俺はもう耐えられない。
『君に足りないのは残忍さだよ』
『居住区の人間を負い目無く犠牲にしていれば、僕もどうなるか分からなかった。君はちょっと優しすぎるよ』
何回目かの時にそんなことを言われた。
それは尤もだ、だけど俺はどうしてもそれが出来なかったんだ。
ヤツはそんな諦観にも似た俺の顔を見て、全てを理解したような表情をする。
「どう? 今までの僕は強かった?」
「あぁ、頭がおかしくなるくらい強かったさ」
リズは訳が分からないような顔をし、イリスはある程度予想がついていたように表情を一つも変えない。
「決めた、彼に協力してもらおう」
「おそらく、イリスを除いて今一番僕たちのことを知ってるのは彼だ。そんな逸材、是が非でも欲しいね」
そう言ってヤツは俺に手を差し伸べてくる。
「楽にして欲しいと言うなら、僕を殺すなんて考えなければいい」
「仲良くしよう、今まで何度も戦ってきた仲だろ?」
「別の僕も、こうなることを見越してたのかもね」
その皮肉は俺に効くな。
「好きにしろ。未来を夢見ることができるんだったら、俺はそれでいい」
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