1日と1時間8分57秒より
クソ、また失敗した。
早く殺さなければ、日の目を浴びる前に殺さなければ。父の遺言を読んでわかった、俺が殺さなければきっと災いが訪れる。
俺しか出来ない、だから必ず成功させる。
家の中で入念に最後の確認を行った。
ヤツを殺すために必要な道具が揃っていることを確認し、何ヶ月もかけて考え続けた計画を幾度となく
動物たちを介して村人の情報を探っているヤツは、当然俺の行動も観察している。表向きは普通に生活しているように、そしてその間にも着々と準備を進められるように行動していた。
翌朝。
ヤツが民家から出るのを見届けたあと、俺も村を出てバルティアへと向かう。
まず確実に潰さないといけないのは『視線』の力を持ったリズという少女だ。
人から向けられた視線を感じ取ることの出来る力、暗殺や不意打ちはこの力によって封殺されてると言っても過言ではない。この力をどう攻略するかが鍵となる。
「なんか私たち、たくさんの熱い眼差しを向けられてるねぇ...。美人すぎるのも困りものだなこれは」
狭い路地を歩いている『知識』の女がそう話す。イリス...この女も厄介極まりない存在だ。
一度触れられたら最後、自分の生い立ちや今何をしようとしていたのかまで全て、彼女の知識欲の糧となってしまう。俺が誰に根回ししていたのか、父の手記には何が書かれていたのかが全て知られてしまう。それだけは避けねば。
俺と懇意にしてくれている居住区の皆、ヤツらが感じている視線の正体はそれだ。危険が伴う願いなのに、二つ返事で了承してくれた。この人たちのためにも、俺は戦わなければいけない。
能天気に振舞っているイリスを他所に、リズはヤツに何かを耳打ちする。
そうして連中は唐突に裏路地へと進路を変え、俺たちの視線から外れる。突然のことに不意をつかれた住民たちは、焦った表情で路地裏を覗き込む。
しかし、そこにヤツらの姿は無かった。
「おい! アイツらはどこいった!?」
「ベン! どうする!?」
このことも織り込み済みだ。
ヤツらは『移動』を使って一旦距離を置いた、でも俺は移動した先がどこか知っている。
あらかじめそこに仕掛けておいた、ヤツを殺すための罠を。
『移動』を使うかどうかは賭けだった。
だから俺は別の手段を選ぶかどうかを見て、決めなければいけない。そのために俺は居住区の皆と同じ場所にいた。
移動先に向かう途中、進行方向から爆発音が聞こえてくる。
...これで確実に死んだはずだ。
いざとなれば次の手も打ってある、現場に着けばヤツの死体を拝めるはずだ。
さらに進むと、今度は何人もの怒号や雄叫びが聞こえてくる。
最初に仕掛けたのは、『武器』から調達した
次に仕掛けたのは、建物を一つ倒壊させる程の量ある爆薬だ。これは言わずもがな、喰らえば生きているなんて到底思わない。
爆薬が起爆したら、離れた所にいる仲間が死体の確認を含めてヤツらの元へ向かうことになっている。
だから...。
頼む、死んでいてくれ。
俺は何故訳の分からない事を祈っているのだろう、不思議で仕方ない。
やっとの思いで現場に着く。
そこには仲間の死体が、乱雑に放り捨てられた仲間がいた。
そして不意に、背後から何者かが俺の首を絞める。何者かなんて考えるまでもない、こんなことが出来るのはヤツしかいないのだから。
目を開けると、目の前にはヤツらが立っていた。
「おはよう、ベン・ドロッド君。もう口を開かなくていいよ? 君のことは全て知っているからね」
「私たちのことを随分警戒してたようだけど、あと一歩足りなかった。まぁ怪我なんて一切してないけど」
イリスは流暢に皮肉を浴びせる。
「君のお父さん、とても面白い手記を残してたみたいだ。例えば........」
音が、意識が遠のいてく。
クソ、また失敗した。
これで何回目だ?
すべて、全て対策されてしまう。
全て初めて遭遇する出来事のはずなのに、一回も殺せた試しがない。
そうして俺はまた
1日と1時間8分57秒より、俺はまたヤツを殺すために思考する。
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