13. 廃国

『...今日はお前の誕生日だったな、神に感謝を捧げよう』



『...神父様の言った通り、今年は作物がよく実る。きっと我々の祈りが神に届いたんだ』



『...さっき隣の家に旅人が訪ねてきたらしい。これも神の思し召しだ、この出会いに感謝しつつもてなそう』



どの民家でも共通して出てくる言葉がある。


それは「神」

この村では何をするにしても神を媒介にするらしい。だけどそれ以外はいたって普通、むしろ他の村よりも温厚だと言える。



明日の準備を進める傍ら、僕は動物たちの目や耳を借り、この村についての情報を集めていた。


訪問者が来た場合、この村の住民はどんな反応をするのか、人肉を食すという行為に抵抗を感じないのかなど、調べることは多い。大した情報は得られなかったけど、少なくとも危害を加えるような場所じゃないということは分かった。




窓を開けると、どこからか小鳥がやって来て僕の肩にとまる。その小さな体に触れると、上空からの映像が頭に入り込んできた。


「ありがとう」


何の変哲もない普通の村。

唯一特徴があるとすれば、奥の方に大きな教会が建ってることくらいだ。



「いいお湯だった〜」


そう言って、リズたちが部屋へと入ってくる。


...まあいい、今日はこれくらいにしとこう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「この村を訪れたのも何かの運命でしょう。もし何かあれば、またこの村においでください」



「神の御加護があらんことを」


早朝、老人の案内によって、僕たちは教会へと足を運んでいた。大きな協会と言ってもそれ以外は特に何も無く、どこにでもある教会という印象を持った。


「いえいえ、こちらこそお世話になりました。私たちはこの村が末永く幸せになることを願ってますよ」


イリスは流暢に言葉を並べる。相手が求めている答えを的確に突いてる感じがして、流石は知識人だなと思った。


「つかぬ事をお聞きしますが、貴方は転移者の方ですか? どうにもそのような気がしたので...」


僕がそう聞くと、神父姿の男性は嫌な顔ひとつせず答える。


「はい、そうですよ」


「私は身近に小さな幸せを呼ぶことが出来る『祝福』の力を持っています。たいした力ではありませんが、私にはこの力が似合っている気がするのです」



「そうだ。お嬢さん、手を出して」


リズが手を出すと、神父は何も無いところから草を一本生みだし、それを手のひらに乗せた。


「これは白詰草シロツメクサ、またの名をクローバーと言う草です」


「通常三つの葉しか持たないこの草ですが、これのように四葉のモノもあります。とても珍しいものなので、四つ葉のクローバーを見つけた者には幸運が訪れると言われていますね」



「たとえ小さな幸運でも、今日のあなたに訪れますように」





村を出て、丘を降り、僕たちは「廃国」へと足を踏み入れる。


幸いあの国での出来事はまだ伝わっていない。簡素なやり取りを終え、僕たちは夜の国へと入ることに成功した。


「なにここ...。日が昇ってるのに街灯の灯りがないと暗くて進めない...」


国に入る前から分かってたことだが、どの建物も異常なほど高くそびえ立っている。日の光は建物に遮られ、僕たちが歩く地上は日が昇っていないのと同じだった。


「...あれは?」


「アレは薬物中毒者だね。この国の特徴として、世界中のあらゆる薬物がこの国を経由して出回ってる」


「犯罪の温床なのは見た目通りだけど、驚くことに自警団隊が存在しないんだ。世界はコレを国と認めてる、不思議で仕方ない」


路上で蹲り、ブツブツと何かを発しながら痙攣している。その光景を見ただけで僕はこの国に激しく嫌悪感を抱き、この国の現状を知った。



ふと、リズが何かに気づく。


「私たち、誰かに見られてる」


「尾行されてるってことだね。手を出してくるまで泳がそう」


得体の知れない誰かに後をつけられながら、僕たちはこの国を見て回る。



確かに犯罪の温床かもしれないけど、それは場所によりけりだと僕は思った。場所を移せば貧しいながらも普通に生活してる人を見かけたし、少なくとも笑顔はあった。


でも何かがおかしい。

その笑顔をただ受け止めることが出来ない、何かの違和感が付きまとう。



そうして奥へと歩みを進めると、リズが小さく耳打ちしてきた。


「来る、この先の曲がり角で待ち伏せしてる」



「了解」


曲がり角へと差し掛かる直前、ものすごい勢いで男が飛び出て、持っていた刃物を振りかぶってくる。



しかし、男は僕を視てしまった。リズの力によって、男は為す術なく身動きが取れなくなっていた。


「やあ、出てくるのをずっと待ってたよ」


「何の用かな? 用件を言っておくれよ」


男を拘束し、僕はそう尋ねてみた。



「死ね! 化け物め!」




『契約』は、俺が殺さなきゃいけないんだ!

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