9. 顛末
僕は重厚で巨大な扉を開ける。
その扉は見た目通りといった感じで、力を加えると重々しく開いていった。
「...あらまぁ。これは酷い...」
綺麗な断面をした死体が複数、そして同じ人間とは思えない巨大な人間の死骸が一つ、闘技場を思わせるその場所は血の匂いで溢れていた。
「やっとお出ましか。あと少しでお仲間を商品に変えるところだった」
拘束されているリズの傍らに立ち、あと少しで手を掛ける所だったライザ。何かがほんの少しでも遅れていたら今頃リズは死んでいたと思う。
「間に合ったならそれで充分だよ。それで、ホロから贈り物を受け取ってくれた?」
「ああ、ちゃんと届いた」
「そして俺の読み通り...アレはお前に渡したモンひっくるめても釣りがくるほどの上物だった」
ライザはそう話しながらリズの拘束具を解いていく。
そうして僕たちは再び再会を果たした。
僕たちの距離は近いはずなのに、その間には絶対的な溝があるように思える。まあしてきたことを思えば当然のことか。
「...こんなクズの顔、二度と見ないと思ってた」
「何しに来たの? 私は使い捨ての駒じゃなかったの?」
そうだ、君は駒だよ。
「御託を並べても意味が無いことはわかってる。だからホントのことを言うよ」
「僕はクズだ。だから使える駒は何としてでも傍に置いておきたい」
どう? これでいい?
「...バカ」
リズが不自然に顔を逸らすので、僕は不思議に思い覗き込もうとする。それを遮るようにライザが手を叩き、そして話し出した。
「契約も無事成立したことだ、さっさと立ち去れ。もう奴らがいつ来てもおかしくない」
奴ら?
そう疑問に思ったのも束の間、ライザのそばに居た従者が力なく倒れる。
その顔には、ポッカリと穴が空いていた。
「そら! 執行局のお出ましだ!」
従者たちが慌てふためき、この場は混乱を極める。等間隔で従者たちの体には大きな穴が空き、そして絶命する様子が見えた。
「ここから離れるのにどれくらい距離が必要?」
イリスは微塵も狼狽える素振りを見せず、そう僕に尋ねてくる。
「とりあえず地上にさえ出ればなんとか」
「よしよし、じゃあ急ごうキミたち」
「皆さま、出口はこちらです。お早く」
ホロの案内の元、僕たちは急いでこの場所から離れることにした。
去り際、僕はライザの方を向き直る。
「ねぇ、いつか殺しに行くよ」
ライザは一瞬虚をつかれたような顔をしたものの、今まで見た事がないくらい愉しそうな顔をしていた。
「ああ、こっちも商品の棚は空けておくよ」
長い階段を駆け上がっていると、リズが何かに気づく。
「どうした?」
「なにか...視線を感じる...。ここには私たち以外いないはずなのに」
視線? そんなものはどこからも...
「あー、そういうこと。もう分かるんだ」
「みんな避けて、死ぬよ」
そう言ってイリスは突然、僕の背中を力強く押す。僕は体制を崩すもなんとか持ち堪え、何事かとイリスの方を向いた。
イリスと僕の間に出来た僅かな空間、壁から壁の間を勢いよく何かが通り過ぎていく。
そこは本来僕がいた位置。イリスが押さなければ、間違いなく僕はそれに当たって死んでいた。
「さあ、死にたくないなら急ぐよ。ゴーゴー!」
そうしてたどり着く、地上への扉に。
地下から地上に行くための扉、数ある中の一つ。
その扉を開けると、眩い光が薄暗い地下を勢いよく照らした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
国を見渡すことの出来る丘の上、僕たちは国を出ることに成功していた。
国のどこかからは土煙が上がり、微かに警鐘の音が遠くから聞こえる。イリスもリズも僕も、並々ならぬ状態の故郷をただ眺めていた。
「これからどうするの?」
リズは景色を眺めたまま、そう尋ねる。
「転移者の力を奪いながら各地を転々とする。欲を言えばこの世界に降り立ったばかりが好ましいかな」
「イリス、そんな条件に適した場所はある?」
イリスは少し考え、そして答える。
「そうだねぇ、転移したての人間が多く訪れる国はこの世界に二つあるんだよ」
「一つはこの国、まあ主要国だから当然だよね。そしてもう一つが万博都市エデル、世界各国の最先端が揃う場所」
「よって、私たちが目指すのは後者になる。エデルへと向かうには国をひとつ跨がなきゃいけないけど...まあそれは後でいっか」
僕は生い茂る木の一つに背中を預ける。
「エデルでは間違いなく戦闘が起こるだろうね。さっきの執行局に異能狩り、ライザが来る可能性も決して否めない」
「そこに私たちを含めると...四つ巴? 軽く戦争じゃない? これ」
僕はリズとイリスのやり取りを眺め、体の力を抜いた。今まで続いていた緊張感が一気にほぐれ、途端に疲労が全身を襲う。
ゆっくり、ゆっくりと瞼を閉じる。
これから起こることなど一切考えず、ただ暗闇の中へと落ちる。静かな丘、どこかから吹くそよ風がとても心地よく感じる。
そしてゆっくりと、僕は意識を手放していった。
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