4. 対価
「イリスは大体王宮に引き籠ってる。まあ王国側からしても国宝級の人間が歩き回られても困るからな、外に出さず守ってるとも言える」
「おいおい、まさかイリスをどうにかするって考えてんのか? そんなことしたらお前...世界中の人気者になるな!」
よほど滑稽だと思ったのか、ライザは声を出して笑う。会ってから初めて見た表情、この男も笑うことが出来るんだなと感じた瞬間だった。
「イリスがどんな形であれいなくなれば、この国には動揺が走る。当然各国のスパイ...あー、密使者がその情報を掴んで伝えるだろうな」
「...そのイリスを殺したり仲間にする方法は?」
ない。
「馬鹿なこの国でも流石にそこまでじゃねえ、抜け穴もないし内通者を置くのも無理だな。じゃなかったら今頃俺が国を治めてる」
入念な準備でもすれば正面突破も出来るかも...けど、今はそんな仕込みをしてる時間はない。安置所で殺した局員は全て隠したけど、そんなのはただの気休めだ。
...最長で二日もてばいい方だろう。
その限られた時間で城内の構造を把握し、そして侵入経路を確保する。もし途中で見つかったら...城内にいるだろう転移者たちも相手にしないといけない。
無理、とまでは言わないけど流石にキツい。
勝手に考え始めんな、まだ最後まで言ってねーぞ?
「確かに抜け穴もないし内通者も置けない、挙句の果てには国王直属の転移者たちが何人もいる。でもな、別に方法がないわけじゃない」
「この店一番の目玉商品、コレを使えばたぶんお前の突飛な夢も成功する。昔この国を落とそうと密かに用意してたモンだが...今は諦めたから売りに出してる」
「対価はまあ掛かるが...お前は必ずこれを欲しがるはずだ」
蝋燭に灯る火が不気味に揺れ、燭台には不規則に陰が出来る。
「...その商品って?」
『移動』の力
「自分の把握してる場所ならどこへでも瞬時に行ける優れものだ、まあ色々と制約があるがな」
確かにそれを使えば『知識』の元へ向かえる。
国王直属の転移者といってもほんの数十秒程度で何かできるわけじゃない。警護の穴を見つけて連れ去るだけなら二日でも事足りるはず。
「対価は?」
「さっきの情報も含めて一つの商品って扱いにするよ。商売人は客に離れてもらわれると困るんでね」
「本当なら金銭でのやり取りをしたいとこだが...お前ら金持ってんのか? ずいぶん貧相な見た目してるが」
ライザは不思議そうに僕らを見つめる。
「それに関しては大丈夫だよ。リズ、さっき集めたものを頂戴」
そう言うとリズは小さな革袋を取り出す。袋の底は赤黒い何かが染みており、仄かに香る匂いは僕に不快感を与えた。僕だってこの匂いが好きなわけじゃない。
「...これ全部人間の目か?」
「悪魔、この...」
言葉が不自然に止まる。
「やめろ、殺すな」
気づけば、僕の首筋にはいくつもの武器が向けられていた。
黒ずくめの衣装に身を包み、仮面で顔を隠している従者たち。その背丈や僅かに見える髪から、僕は目の前の従者たちが女なんじゃないかと感じた。
「お前の持つ力についてはよく知ってるからな、こいつらも少し神経質になってたらしい。すまない、謝るよ」
...全部がバラバラだった。
僕の後ろではありえない速さで従者の一人が向かってきてたし、目の前にいる従者に至っては初めからそこにいた。どう見ても普通の人間とは思えない、でも...ほんとに彼女たちは転移者か?
「客に無礼な態度をとったのは悪いと思うが、確かに『契約』を使われるのは怖い。だから金じゃなくて物の交換でいこう」
「そこの...リズって言ったか? ソイツを商品として貰うことにするよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
僕は迷った。驚愕した表情を浮かべる彼女を横目に、僕はとても迷った。
彼女を生贄にしてこいつらを殺してしまうか、それとも素直に明け渡し『移動』を貰うか、とても迷う。
そうして決まった僕の返事を聞いて、ライザは口角を少し上げる。
うん、わかった。
「あげるよ」
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