3. 道具
『なんでそこまで『武器』にこだわるの? 今は確実に逃げたほうがいいと思うけど』
『...そもそも、なんであの監査官は僕が『契約』の力を持ってるって知ってたんだろうね? 仮に力を二つ持ってるなら、今の僕はソレが使えてるはずだ』
僕が完全に息絶えた時、他の何よりもまず先にそのことを考えていた。
僕がシスターから『契約』を託されたことは誰も知らないはずだ。知ってたとしても、確実に全て殺した。あの部屋にいた人間は全員死んでいることを確かめたし、悪魔が魂を吸い忘れるなんてことは考えられない。
『転移者たちの力を識別できる人間がいるのか、全知の神でもいるのか...まあどっちにしろ、監査官に余計なことを教えたヤツがいるはず...』
アイツはいまこの国にいないはずだ、いたら僕はとっくに死んでる。
入国して間もない僕の存在に気づき、その力を看破して監査官に伝えた。おそらくはこの国内にいる存在、その情報がどうしても欲しい。
『二度と戻れなくなる前に、そいつを仲間にするか殺しておきたい。だから今のうちに『武器』の元へ行ってそいつに関わる情報が欲しい、あわよくば『武器』の力も手に入れたいかな』
『そ、なら納得した』
『どうせあんたがいないと逃げれないわけだし、どのみちついてくことになったけどね』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「とりあえずは情報が欲しいかな、対価は提示してくれればその場で用意するよ」
紅い装飾が目立つ広間、晩餐机の上にはアジサイを活けた花瓶と蝋燭が並んでいる。僕たちは椅子に腰かけ、人の命や情報などの目に見えない何かについて取引していた。
「転移者の持つ力を判別できるような力...『識別』もしくは似た力を持つ存在がこの国にいるのかについて知りたい」
『識別』? ソイツなら俺が殺したよ。
「俺がさっき掛けたクソだせぇ片眼鏡、あれが『識別』の成れの果てだ」
「...っえ?」
大体は予想できてた。
魔法なんて概念はないのに、「魔剣」や「魔弓」なんて存在するはずない。伝説の武器として語られたそれらの正体は、転移者の力を武器に移したものだったということ。
「...それはいつ?」
ライザは顎を手で触りながらしばらく考える。
「あれはたしか...一か月前だったかな。運悪く捕まって商品として来たのを殺した気がするな」
一か月前か...。
「じゃあ、この国に初めから誰がどの力を持ってるか知ってるような存在はいる? もしくは『識別』以外に僕の持ってる力を知る方法はある?」
先程は深く考えていたライザだったが、その質問に対しては即答する。
「それなら簡単だ。この世界が生まれてから今に至るまで、世界中で起こった全てを知ってるやつが一人だけいる」
「名前は...イリスだったか? 現国王の戴冠式に顔出してた気がするな」
「そいつが『知識』の転移者であり、この国お抱えの歩く図書館ってわけだ」
...やっと見つけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます