2. 過去

夢を見ていた、過去の夢。



それはとても寒い冬の日、赤白く広がる地面、炎を上げる瓦解した家屋、俺が立つ場所は地獄なんじゃないかと思った。そして人の死体が作り出す道を抜けていくと、そこには黒く長い髪をした綺麗な女が立っていた。


『ふふ、あなた死んでないってことはこの街の人じゃないんですね』

『ようこそ、幸福の街ブーディカへ。まあ私が消しちゃいましたが』



そうはにかむ姿を見ただけで感じた、この女はヤバいと。

王国から手配中の『魔女』がこの街に潜伏していると聞いて調査にやってきた。予定では住民の名簿を手に入れるだけの仕事だったはずだが...最悪の外れくじを引いた。


『だいぶイカれてるな。潜伏してるのがバレたから街もろとも証拠隠滅か? 魔女と言われるだけあって人間とは思えん』


『証拠隠滅? 何言ってるんですか?』





『私はみんなと仲良くなって、了承を得て、そして殺したんです。中には涙ぐんで旅立っていく子もいて...私もちょっと潤んじゃいましたね』


首筋を撫でるような悪寒と共に、幾筋かの冷や汗が伝っていく。



『大工のウィリー君は私のことを好いてました。レンガを積み立てる時に私のことを見て、うっかり手に持ってたレンガを足に落とした時は笑いましたね』


『メイとリンの姉妹とはよく遊んでました。二人は男勝りな性格ですから、女の子のお淑やかな遊びを教えたら大喜びしてました。たぶんその性格を気にしてたんでしょうね』


『警備兵のダンとは共に一夜を過ごしました。カレ初恋が私だったみたいで、猛烈にアピールしてきてかわいかったですね』



そしてみんな、私が『契約』の魔女だって知ったら、血相を変えて怯え始めたんです。



『でも話をしたらみんな分かってくれました。私の抑圧された気持ちを晴らすために、という無茶なお願いにも見事答えてくれましたし。この街の人たちはみんな優しいです』


こいつは本当に人間なのか?

口を開けば開くほど、目の前にいる女が人間とは思えなくなる。何をすればここまでになるんだ?


『...その目、理解不能って顔してますね』



でも、私の行動理由は簡単です。私は『抑圧』から解放されたいだけなのです。


『文武両道、才色兼備、品行方正、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花とかとか、私にはその全てが求められました』


『娯楽なんて一切なく、するのは見栄えを良くするための努力だけ。それはどこにいても変わらない...あっちの世界でも、この街でも』


『だからこの力を手に入れた時はとても嬉しかったです! なんて最高の娯楽、この世界でしか味わえませんから!』



俺は服に忍ばせたナイフに手をかけ、いつでも取り出せるようにする。

すると興奮冷めやらない女は、どこからか可愛らしい人形を取り出す。笑みを浮かべながらそれを俺にみせた。


そしてその人形の両手に針を刺し始めた。



そして次の瞬間、俺は見えない何かによって空中へと投げ出され、磔にされる。


『それは『呪い』の力です。この人形はあなたの身代わり、かわいいでしょ?』

『こうやって針を刺してくと...ふふ、いっぱい血が流れて痛そうですね』


クソ、口が動かない。

『契約』の力で口が動かなくなっているようだ、対抗手段が全て封じられてしまった。ここまでか。




そう思った時、どこからか声がした。







『なんか面白そうなことしてるね、俺も混ぜてよ』






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